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週刊タイ経済
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総選挙結果
前進党が第一党に躍進
投票率は史上最高の75.22%

 選挙委員会(EC)が5月15日に明らかにした下院議員総選挙の開票結果によると、比較第一党になったのは前進党だった。同党は首都圏や東部で圧倒的な強さを見せたほか、北部や東北部でも躍進し、選挙区(全400議席)で113議席、比例(100議席)で39議席の計152議席を得ることになった。
 「地滑り的勝利」を目指したプアタイ党は、目標とした下院の過半数に遠く及ぼない141議席にとどまった。99年以降、タクシン派政党が総選挙で比較第1党になれずに敗れたのはこれが初めて。プアタイ党は選挙区で112議席、比例で29議席と、いずれも前進党の後塵を拝している。
 前進党はバンコクの33選挙区のうち32選挙区で勝利したほか、サムットプラカン県(8議席)、ノンタブリ県(8議席)、ラヨン県(5議席)、チャンタブリ県(3議席)、プーケット県(3議席)を独占した。タクシン元首相のお膝元であるチェンマイ県(10議席)でも7議席を獲得し、プアタイ党はわずか2議席にとどまった。
 一方、与党陣営ではタイ矜持党が70議席を獲得したが、パランプラチャーラット党は41議席、プラユット首相を首相候補に担いだルアムタイ・サーンチャート党は36議席、民主党は24議席にとどまった。
 今回の総選挙の投票率は75.22%で史上最高を更新した。過去最高は2011年の75.01%だった。33議席中32議席を前進党が勝利したバンコクでは、投票率74.28%だった。バンコク都の国政選挙の投票率は07年が69.37%、11年が71.8%、19年が72.51%と回を追うごとに上昇してきている。
 なおタイでは選挙での投票は憲法で国民の義務とされており、理由なく投票しなかった者には罰則が適用される。病気、高齢、不在などの理由で選挙権を行使できなかった有権者は、投票日の1週間後(5月21日)までに、行使できなかった理由を自身が住民登録している役場に通知することが義務付けられている。役場の窓口に直接出向けない場合には郵送もしくはオンライン(www.bora.dopa.go.th)でも通知可能。期日までに通知しなかった場合、2年間の被選挙権剥奪、地方行政機構での政治職就任禁止などの罰則規定がある。
 ECは総選挙から60日以内(7月13日まで)に選挙結果を正式承認する。その後、15日以内に下院議会が召集され、下院の正副議長を選出。正副議長の国王認証を経て両院合同会議が召集され、首相指名選挙が行なわれる。首相指名は7月終わり、または8月初めになりそうで、その後の組閣を経て新政権が発足するのは早くても8月となる。

経済界は新政権の安定求める

 経済界は速やかに連立政権が合意する政策が明らかになり、新政権が早期発足することを望んでいる。タイ商業会議所(TCC)のサナン・アンウボンクン会頭は5月15日、選挙結果からは圧倒的な議席を得た政党がないこと、野党の2党が上位を占めたことで上位2党が連立を組むことが可能なことが明らかになったと語った。その上で経済界に限らず、すべてのセクターは安定した政府を望んでいると述べた。次期首相に最も近い前進党のピター・リムジャルンラット氏がまだ42歳であることについては、英国、フランス、カナダなどの例を引いて若い世代が指導的役割を果たすのは良いことだとした。サナン氏は投票率が75%を超えるなど、今回の総選挙における有権者の関心が極めて高かったこと、すべての年齢層で過半数が比例で上位2政党に投票したことを根拠に、国民の大多数が変化を求めたことを浮き彫りにしたと解説した。
 タイ荷主評議会(TNSC)のチャイチャーン・ジャルンスック会長は、新政権が安定し、政治対立を減らし、国の利益を優先することを望むとコメントした。政府の安定は外国人投資家の信頼と観光業の成長を促し、タイ経済に大きく貢献すると指摘する。輸出産業に対しては、電力料金やエネルギー高などの生産コスト増への対応や中小企業の資金繰り支援を要望した。このほかプラユット政権が進めてきたアラブ首長国連邦(UAE)、欧州自由貿易連合(EFTA)との自由貿易協定(FTA)の推進や中東諸国との関係維持も不可欠だと述べた。また現政権で官民が協力して今年下半期の輸出刺激策を練ってきたことを示し、政策の継続を求めた。
 一方、民間発電事業者RATCHグループ社のチューシー・キアットカチョンクンCEOは、割高な電力料金の問題を解決する必要があるが、電力料金を引き下げる計画は電力会社にとって公平でなければならないと牽制した。電気代の値上がりが続く中、独立発電事業者(IPP)や小規模民間発電事業者(SPP)に対する支払準備金(AP)が批判を受けている。APは広域停電を避けるために電力が常に利用可能であることを保証する制度だが、そのために電力料金は割高になる。チューシー氏は、新政府がこの問題を解決したければ、電力会社との電力購入契約(PPA)に手をつけなければならず、その改正は電力会社に融資している金融機関の懸念を引き起こすおそれがあり、金融の安定にも負の影響を与える可能性があると指摘した。
 クルンタイ・アセット・マネジメント社のチャウィン・ハンラタナクンCEOは、前進党の政策について、福祉に焦点を当てている一方、経済成長に不可欠な資本市場に関連する政策が見られないと指摘した。同党の福祉政策実現のため社会保障関連の費用が増大すれば歳入を増やす必要がある。同CEOは、すでに高い生活費を負わされている消費者に大きな負担をかけることがあってはならないと主張。また前進党が掲げる経済社会の構造改革については、社会が安定し、対立を起こさないよう徐々に進めていくよう求めた。

タイ工業連盟(FTI)
新政権に経済政策提言へ

 タイ工業連盟(FTI)のモントリー・マハープレークポン副会長は5月16日の工業部門信頼感指数の発表会見で、新政権に産業界が望む経済政策を詳述した「ポジション・ペーパー」を提出する予定だと語った。現在、内容を詰めている段階で、5月末には完成する見通し。同副会長はこのペーパーによって、産業界のスタンスと新政府に何を求めるのかを明確すると語った。
 FTIは新政権の早期発足とともに、現政権が始めた東部経済回廊(EEC)、EV普及振興策などの主要な経済政策を継続するよう求めている。またプラユット政府がアジェンダ(国家的課題)に掲げたバイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済モデルを新政権も推進するよう求めている。
 新政権の発足は順調に進んでも8月初め頃になると見られている。経済界は10月に期初を迎える24年度予算法の成立が遅れて、政府支出が細ることを懸念している。
 予算局は新政権が掲げる政策を反映するため来年度予算を調整する方針。来年度予算は大枠がすでに閣議決定されており、各省庁への予算配分もなされているが、調整可能な費目があるかどうかを確認する。
 新政権の発足は早くて8月と予想されており、24年度の予算法を9月末までに成立させることは日程的に極めて困難。国家経済社会開発評議会(NESDC)のダヌチャー・ピチャヤナン事務局長は予算法の成立時期について、24年第1四半期か第2四半期までずれ込むと見ている。予算法が成立するまでの期間は23年度予算に準じた暫定予算が組まれ、執行される。

EV3.0の振興策
修正案を閣議了承

 スパタナポン・パンミーチャオ副首相兼エネルギー相は5月16日、EV普及振興策「EV3.0」の修正案が同日の閣議で了承されたことを明らかにした。同大臣が委員長を務める国家EV政策委員会が昨年9月22日の会議で決定していたもので、電動バスにも拡充する内容。一方、「EV3.0」を継承する「EV3.5」とEVバッテリーに対する補助金については、予算をともなう部分の決定は新政権に委ねられると述べた。
 電動バスは価格が200万バーツを超えず、バッテリー容量10キロワット時超を有している座席数10席以下のバスについて、輸入関税と物品税を引き下げ、販売補助金を出す。追って国内で電動バスまたはピックアップ・トラックを生産することが条件だが、国内生産するモデルは輸入販売するモデルと異なっても構わない。価格が200万バーツ超700万バーツ以下、バッテリー容量30キロワット時超を有している座席数10席以下のバスは、輸入販売したのと同じモデルを追って国内生産しなければならないが、違うシリーズ番号でも構わない。
 EV3.0では追って国内でEVを組み立てることを前提に、輸入販売するEVの輸入関税、物品税を引き下げるとともに、メーカーに販売補助金を出している。バッテリー容量が30キロワット時以下のEVには1台あたり7万バーツ、30キロワット時超のEVには15万バーツの補助金が出る。このプログラムに参加している自動車メーカーは全部で12社。うち四輪はトヨタ、長城汽車、上海汽車、MG、BYD、ベンツ、NETA、MINE、グリーン・フィルターの9社。二輪はホンダ、DECO、HSEMの3社。

NESDCのGDP統計
1~3月期の製造業は収縮

 国家経済社会開発評議会(NESDC)事務局が15日に発表した2023年第1四半期(1~3月期)のGDPを生産面から見ると、宿泊/飲食業、運輸/倉庫業、卸小売/修理業、建設業、農林水産業は成長が加速した一方、製造業と電気/ガス業は収縮した。
 農林水産業の生産は7.2%増となり、前の四半期の3.4%増から伸びが加速した。天候と十分な水量に恵まれた。生産指数を見ると、米(20.4%増)、果物(22.5%増)、パーム椰子(30.0%増)、サトウキビ(17.1%増)、肉鶏(2.3%増)が増えた。一方で生産指数が減少したのはキャッサバ(3.7%減)、飼料用メイズ(2.5%減)、バナメイ・エビ(2.5%減)など。
 農産物価格指数は1.3%減となり、4・四半期ぶりに下落した。価格指数が下落したのは天然ゴム(22.2%減)、パーム椰子(48.4%減)、バナメイ・エビ(10.6%減)など。その一方で多くの農産物の価格が上昇している。指数が上昇したのは米(19.2%増)、キャッサバ(25.0%増)、肉鶏(11.1%増)、飼料用メイズ(26.0%増)、果物(2.8%増)など。
 生産指数と主要農産物の価格指数の上昇を受け、農業所得指数は前の四半期の16.1%増に対し6.2%増となり、5・四半期連続で拡大した。
 宿泊/飲食業の生産は34.3%増で、前の四半期の30.6%増から伸びが加速した。外国人観光客数とタイ人の国内観光が高水準で増えていることによる。この四半期にタイを訪れた外国人観光客数は647万8000人で、コロナ前水準の63.60%まで回復した。この四半期の外国人観光客からの観光収入は3040億バーツで、コロナ前の60.87%まで回復した。前年同期比では300.4%増。7・四半期連続で拡大した。タイ人観光客からの収入は1950億バーツで、コロナ前の76.24%まで回復した。前年同期比35.4%増となるもので、5・四半期連続の増加となった。観光収入合計は4990億バーツで、前年同期比126.7%増。ホテル客室占有率は平均で70.28%で、前の四半期の62.64%を上回り、過去13・四半期で最高となった。
 卸小売/自動車修理業は3.3%増で、前の四半期の3.1%増から伸びが加速した。プラス成長は8・四半期連続となった。観光分野のサービス業が上向いたことと家計部門の支出の継続的な拡大が寄与している。
 製造業の生産は1~3月期に3.1%減となり、前の四半期の5.0%減に引き続き収縮した。輸出向け製造業と国内消費向け製造業が収縮した一方、輸出比率が30~60%の製造業の生産は拡大した。製造業の収縮は工業生産指数が前の四半期の6.0%減に対し3.9%減となったこととも一致している。輸出向け生産(輸出比率60%以上)の製造業の生産は13.7%減で、前の四半期の14.8%減に引き続き収縮した。物品輸出の収縮が影響した。国内消費向け生産(輸出比率30%以下)の製造業の生産は1.9%減で、前の四半期の5.1%減に引き続き収縮した。一方、輸出比率が30~60%の製造業の生産指数は1.7%増となり、前の四半期の1.4%増から伸びが加速した。プラス成長は3・四半期連続となった。
 この四半期の設備稼働率は平均で63.66%となり、前の四半期の60.32%を上回ったが、前年同期の66.77%を下回った。生産指数が下落したのは、コンピュータ/同周辺機器(37.6%減)、家具(48.9%減)、合成樹脂/合成ゴム(16.6%減)など。生産が拡大したのは自動車(7.2%増)、精製油(7.5%増)、パーム油(37.6%増)など。
 電気/ガス/蒸気/空調システム業は前の四半期の0.1%増に対し4.2%増となった。

第1四半期のスマホ出荷数
前年同期比で20%減少

 今年第1四半期(1~3月)の国内のスマートフォン出荷台数は前年同期比で20%減少した。リサーチ会社IDCタイランドの調べで明らかになった。世界的にも14.6%減を記録したが、それを超える下げ幅となった。
 IDCタイの市場アナリスト、アピラット・ラタナウィチット氏によれば、低価格帯のスマホの売れ行きが伸び悩んだのが最大の原因で、高価格帯ではサムスン、アップルの2大メーカーが新機種を発売したことで販売が伸びた。
 当期の世界のスマホ出荷台数は2億6800万台となり、7・四半期連続でマイナスとなった。インフレや景気減速などが背景にある。
 3月にIDCが発表したレポートでは、今年のタイ国内のスマホ販売は台数、販売額とも横這いと予測している。消費者の購買力が年内に回復する見込みは低く、出荷台数ベースで大半を占める低価格帯のスマホ販売の落ち込みにつながる見通し。これに対して800㌦以上の高価格スマホの需要は堅調を維持する見込みで、折り畳み式スマホを導入したサムスン、OPPOなどの機種が人気を得る可能性があると見ている。
 昨年の国内スマホ出荷台数は前年比21%減の1660万台だったが、これは14年以降で最低水準。最終四半期には前年同期比23%減の420万台にとどまっている。政府による消費刺激策がスマホ需要増につながらなかったほか、インフレの進展なども響いた。ただ高価格帯では17%の伸びを示した。アップルがこのセグメントでは79%のシェアを確保したが、前年は82%だった。サムスンが若干シェアを伸ばしている。
 第5世代通信サービス(5G)対応機種のシェアは21年に24%だったが、昨年は34%に上昇した。出荷台数は570万台。ただ4Gから5Gへのアップグレードは3Gから4Gの時ほどスムーズには進んでいない。まだ5Gの使い勝手に対する消費者の不安感も払拭されていないという。アピラット氏は5G対応機種の価格が下がることで、年内に需要のほぼ半分を5G対応機種が占めると見ている。
 ブランド別ではサムスンがシェア24%でトップ、次いでOPPO(17.9%)、アップル(14.5%)、VIVO(13.6%)、シャオミ(12.6%)と予測した。昨年最終四半期にはサムスンが6・四半期連続でシェアトップを堅持したが、シェア自体は前年同期比で20%、前四半期比で11%、それぞれ減少している。最終四半期のシェア第2位はアップル。前年同期比では30%増だったが、前四半期比では7%減となった。新機種のアイフォン14の発売が例年より早く、9月だったことが作用した。OPPOは3位に順位を下げたが、売上は前四半期比では18%伸びた。前年同期比では0.6%減。VIVOは4位に浮上、前年同期比で36%増だが、前四半期比では18%減。シャオミは5位に転落、前四半期比で3%、前年同期比で50%、それぞれ減少した。

最近の更新 2023年05月29日
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