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4月の景気は拡大 工業生産がプラス成長に転じる

 財務省財政局が五月二八日に発表した月例経済財政報告とタイ中央銀行が五月三一日に発表した月例経済金融報告によれば、四月期に景気は上向いている。とくに工業生産はプラス成長に転じ、民間支出も全体として拡大基調が続いている。工業生産の拡大で工業製品輸出は増加し、民間消費と民間投資にも寄与した。ただし生活費と生産コストの上昇に対する懸念から一部の指標は伸びが鈍化している。また世界経済は先行不安を抱えたままで、輸出の収縮が続いている。

 四月の民間消費は季節調整済みの前月比で1・2%収縮した。前年同月比では3・3%増となったものの、三月の3・8%増に比べると伸びは鈍化している。付加価値税収、消費財輸入と燃油消費量の指数で伸びが鈍化した。この月の固定価格での付加価値税収は前年同月比9・6%増と、前月の同11・3%増に比べて伸びが鈍化したが、引き続き高い伸びとなっている。これに一致して四月の消費財輸入額は前年同月比4・5%増となり、前月の同2・7%増を上回った。とくに耐久財の消費が上向いている。四月の乗用車販売台数は23・4%増となり、一一年一〇月以来、6か月連続の収縮からプラス成長に転じている。同様に自動二輪車の販売台数も前年同月比4・2%増となり、前月の同1・2%減から上向いた。二輪車市場のおよそ8割を占める地方県での販売台数は3・0%増となり、前月の1・7%減から上向いた。二輪車市場の2割を占めるバンコクの販売台数は9・7%増で、前月の0・8%増から伸びが加速した。このほかに景気に対する消費者信頼感指数は5か月連続で前月比改善している。四月の同指数は67・5ポイントで、前月の65・5ポイントを上回った。消費者は政府の経済刺激措置と四月一日からの最低賃金の大幅引き上げで、景気と所得は上向くと期待している。

 民間投資は季節調整済みの前月比で2・6%増と伸びが鈍化したものの、前年同月比では12・5%増となっている。前年同月の数値が低いローベース効果が主因。消費財輸入は前年同月比21・3%増となり、前月の16・2%増から加速した。一方、商用車の販売台数は前年同月比35・2%増で、前月の36・7%増から小幅ながら減速した。建設投資の指標では、四月のセメント販売数量は前年同月比4・7%増で、前月の4・6%増に引き続き拡大している。ただし四月の不動産取引からの税収は前年同月比1・7%増にとどまり、前月の12・8%増から伸びが鈍化した。景気の先行きに対する不安や石油高が消費者の住宅購入の意思決定にマイナスとなった。また四月の建材価格指数は前年同月比4・8%、前月比でも0・8%、上昇している。

 生産コストの上昇と世界経済の懸念が輸出を下押ししており、四月の業況判断指数(BSI)は三月の55・5ポイントから47・7ポイントに急落し、業況感は悪化に転じている。ただし四月の消費者信頼感指数と工業部門信頼感指数はそれぞれ77・6ポイント、104・0ポイントとなっており、三月の76・6ポイント、102・1ポイントを上回っている。

 一方、財政政策は引き続き景気を下支えしている。四月の予算収支は225億バーツの赤字。四月の予算執行額は1576億バーツで、前年同月を12・8%上回った。本年度予算からの執行額が1503億バーツで、11・3%増。経常的経費の執行額が1352億バーツで、11・9%増、投資的経費の執行額が150億バーツで、5・8%増だった。繰り延べ予算の執行額は73億バーツで、57・6%増だった。一二年度予算は、二月に予算法が施行になって以降、執行が加速している。四月の政府純収入(地方行政機構への交付金を除く)は1395億バーツで、6・3%増となり、前月の8・8%増から鈍化した。

 工業生産は正常化したが、輸出は引き続き世界経済問題に直面している。四月の工業生産は季節調整済みの前月比で1・5%増を記録した。前年同月比で0・5%増となり、三月の同2・7%減から上向いた。工業生産は昨年一〇月以降、収縮が続いていた。自動車、石油、ビール、エアコン、電化製品の生産が拡大した。工業経済事務局によれば、自動車の生産指数と出荷指数はそれぞれ83・12%増、65・56%増を記録している。大きな伸びは、前年同月に東日本大震災の影響による部品不足から生産と出荷が落ち込んでいたローベース効果が一因となっている。エアコン・同部品の生産指数と出荷指数はそれぞれ13・80%増、2・24%増となった。例年にない猛暑でエアコンの需要が伸びたことが寄与している。ビールの生産指数と出荷指数はそれぞれ8・19%増、4・53%増となった。六月開催のサッカー欧州選手権の開催期間の消費増を見越した在庫投資が貢献している。

 第1四半期に工業生産指数は前年同期比6・9%減となったが、OIEは第2四半期の同指数が2%増へと上向くものと期待している。生産の落ち込みから製造業の第1四半期のGDP成長率は4・24%減となったが、OIEは第2四半期には4・5%増のプラス成長に転じると見込んでいる。OIEのアピワット・アサマポーン次長は、一二年通期で工業生産指数は6~7%増になると予測している。

 一方、四月の輸出は季節調整済みの前月比で0・6%増加したが、前年同月比では3・5%減となり、三月の6・8%減に引き続き収縮している。前年同月比での減少率の縮小は、比較ベースとなる前年同月の数値が東日本大震災の影響から低くなっていたローベース効果が一因。欧州の公的債務危機が世界経済の先行きにマイナスの影響を及ぼしているため輸出の停滞は続きそう。工業生産は全体として第2四半期中に正常化しそうだが、輸出依存度の高い工業の回復は遅れる見通しとなっている。

 サービス業では、四月の外国人観光客数は166万人で、前年同月比6・9%増加した。前月の同12・0%増に比べると伸びは鈍化しているが、季節調整済みの前月比では4・5%増となっている。

 財務省財政局のソムチャイ・サッチャポン局長は二八日、一二年の経済成長率が財政局の従来予測の5・5%増を上回る可能性は強まったと述べている。原油価格が低下しつつあることが経済成長を押し上げると見ている。財政局は六月下旬に最新の経済見通しを発表予定で、成長率予測を上方修正する方針。

 ソムチャイ局長は、欧州の公的債務危機がタイの経済に及ぼす直接的な影響は大きくないとしている。タイの輸出の欧州依存率はさほど高くなく、欧州の金融機関からの借入金の比率も高くないことを根拠に挙げている。ソムチャイ博士は、国際通貨基金(IMF)もタイが被る影響は軽微と見ていることを紹介している。

 カシコン・リサーチ・センター社(KRC)は、工業生産が上向いたものの、欧州の公的債務危機による下押し圧力から世界経済のリスクが高まっていることを指摘し、輸出の回復時期はずれ込むものと予測している。ただし国内消費は五月以降、上向くものと見ている。五月には消費財の価格値上げの凍結や燃油小売価格の下落で生活費負担が幾分軽減されている上、所得も増加している。また洪水発生期に供給が細った自動車や電化製品の生産と供給が正常化したことも消費支出の拡大を促しそう。KRCは第2四半期(四~六月)の民間消費は、第1四半期の前年同期比2・7%増に近似した伸びを示すと予測している。この結果、タイ経済は回復基調が続き、第2四半期の経済成長率(前年同期比)は、第1四半期の0・3%増を上回る3・1~4・1%増に達すると予測している。

 一方、下半期については、成長率は上半期を上回る見通し。比較ベースとなる一一年下半期の経済水準が低いローベース効果が加わるほか、国内支出も勢いが持続するものと予想されている。また政府支出も拡大しそうで、輸出の回復の遅れを穴埋めする。


日付 : 2012年06月11日

By : 時事速報

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