最低賃金の全国一律300バーツ 賃金委が一三年一月実施を決定
官労使の三者代表で構成する中央賃金委員会は九月五日に開いた会議で、一三年一月一日からの最低賃金の全国一律300バーツへの引き上げを最終決定した。すでに昨年一一月二日の会議で決定していたものだが、この決定を支持することを確認した。最低賃金は一二年四月一日からバンコクとノンタブリ、サムットプラカン、サムットサーコン、ナコンパトム、パトゥムタニ、プーケットの7都県で300バーツに引き上げになっているが、来年初めからはその他の県の最低賃金も同水準になる。
中央賃金委の委員長を務めるソムキアット・チャイヤシーウォン労働省次官は、一三年初めに全国一律300バーツとなった後、一四年と一五年にさらなる引き上げはないと述べている。賃金委は四月の大幅引き上げ後の経済状況を密接に追跡し、インフレ率と失業率に大きな影響を及ぼしていないことを確認。計画通り、7都県以外の地方県での再引き上げは実施可能と判断した。賃金委の決定は閣議で追認後、官報公示を経て施行になる。
全国一律300バーツの最低賃金は、プアタイ党の政権公約の一つで、一一年の総選挙で同党を大勝に導いた目玉政策だった。経済界の受けは悪かったものの、中進国になろうとしているタイは、もはや安価な労働力を武器に輸出で稼ぐのではなく、国民の所得を増やして内需拡大による成長を目指すべきだとして政府が押し切った。全国一律300バーツの最低賃金は、最低賃金が200バーツ以上だったプーケット県とバンコク首都圏のみを先行して実施し、その他の県は一律で約40%の引き上げとし、一年後に300バーツに改定することとされた。政府は当初、今年一月一日からの最初の引き上げの実施を予定していたが、大洪水の影響を考慮して四月一日に先送りしていた。今年四月以降、プーケット県の最低賃金は一日あたり221バーツから79バーツ増となる300バーツ、バンコク都、ノンタブリ県、パトゥムタニ県、サムットプラカン県、サムットサーコン県、ナコンパトム県の最低賃金は一日あたり215バーツから85バーツ増となる300バーツに改定されている。先行実施したこれら7都県の最低賃金はは一三年を通じて1日あたり300バーツで据え置かれる。また二〇一四年と二〇一五年は全都県で最低賃金が1日あたり300バーツに据え置かれる。
ソムキアット次官は、今年第2四半期の経済成長率が4・2%増と第1四半期の成長率を上回ったのは、購買力の増加の結果だと主張している。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局のポラマティ・ウィモンシリ次長によれば、第10次国家経済社会開発計画期(二〇〇七~一一年度)にタイ経済の輸出依存率(GDPに占める輸出の比率)は70・5%に達し、第9次計画期(〇二~〇六年)の66・5%から上昇している。経済の輸出依存度が高まっていることを如実に示すもので、内需を大きくしてバランスを良くすることが重要な課題になっている。一方で、過去数か月間のインフレ率は3・3~3・5%増の想定を下回る2%台で推移しており、最低賃金の大幅引き上げは物価の上昇をもたらしていない。また一~六月の失業率も0・8%と低い水準を保っている。
ソムキアット次官によれば、最低賃金の大幅な引き上げは中小企業の約8割に影響を及ぼしているが、労働省、タイ商業会議所、タイ工業連盟が共同で実施した調査では、そのうちの99%は状況に順応することができていることがわかった。また賃金引き上げが過去7か月間に労働生産性の上昇に貢献したことも研究により明らかになっているとした。政府は四月の最低賃金引き上げに対応して、雇用者が毎月支払う社会保険の保険料を割り引いたり、社会保障基金がソフトローンを提供するなど、影響を緩和するための手段も導入している。
経済界は外需の不振と世界経済の減速を理由に最低賃金の再引き上げに反対している。タイ商業会議所(TCC)のプーミン・ハリンスン副会頭は、賃金の急激な引き上げは外国企業の逃避をもたらす可能性があるとしており、欧州の債務危機による世界経済の大変動期に採るべき政策ではないと批判している。同副会頭は、この政策を続ければ多くの中小企業が倒産するか、合理化のための首切りを余儀なくされるとし、来年には失業者が急増すると見ている。TCCによれば、賃金高の影響で今年に入ってから中小企業の7%が倒産している。労働集約型の工業では、最低賃金の上昇と人手不足からタイの工場をカンボジアやビルマに再配置する動きが出ている。
タイ衣料製造者協会のスキット・コンピヤチャーン会長は、衣料業界がユーロ危機と賃金高でダブルパンチを受けていると指摘。輸出価格を上げれば買い手がつかず、価格をそのままにすれば労働コスト高で赤字になるとしている。アタユット・リーヤワニット消費財・サービス使用者協議会事務局長は、来年からの300バーツ統一は、今年四月の引き上げよりも影響が大きいと指摘。もっと時間をかけてすべての関係者で議論すべきだとし、賃金委の性急な決定を批判している。タイ商業会議所大学(UTCC)景気予測センターのタナワット・ポンウィチャイ所長は、世界経済の先行き不透明で、一三年のタイの経済が悪化する可能性を指摘。全国一律300バーツの最低賃金の導入はマイナスになるとして、先送りを提案している。タイ工業連盟のソムマート・クンセート事務局長も、中小企業の適応能力が低いことを理由に、少なくとも一四年初めまで先送りするべきだと主張。一方、労働側は、労働者が物価高に苦しむ中、一五年まで最低賃金を300バーツに据え置くとした決定に強く反発している。
日付 : 2012年09月10日
By : 週刊タイ経済
中央賃金委の委員長を務めるソムキアット・チャイヤシーウォン労働省次官は、一三年初めに全国一律300バーツとなった後、一四年と一五年にさらなる引き上げはないと述べている。賃金委は四月の大幅引き上げ後の経済状況を密接に追跡し、インフレ率と失業率に大きな影響を及ぼしていないことを確認。計画通り、7都県以外の地方県での再引き上げは実施可能と判断した。賃金委の決定は閣議で追認後、官報公示を経て施行になる。
全国一律300バーツの最低賃金は、プアタイ党の政権公約の一つで、一一年の総選挙で同党を大勝に導いた目玉政策だった。経済界の受けは悪かったものの、中進国になろうとしているタイは、もはや安価な労働力を武器に輸出で稼ぐのではなく、国民の所得を増やして内需拡大による成長を目指すべきだとして政府が押し切った。全国一律300バーツの最低賃金は、最低賃金が200バーツ以上だったプーケット県とバンコク首都圏のみを先行して実施し、その他の県は一律で約40%の引き上げとし、一年後に300バーツに改定することとされた。政府は当初、今年一月一日からの最初の引き上げの実施を予定していたが、大洪水の影響を考慮して四月一日に先送りしていた。今年四月以降、プーケット県の最低賃金は一日あたり221バーツから79バーツ増となる300バーツ、バンコク都、ノンタブリ県、パトゥムタニ県、サムットプラカン県、サムットサーコン県、ナコンパトム県の最低賃金は一日あたり215バーツから85バーツ増となる300バーツに改定されている。先行実施したこれら7都県の最低賃金はは一三年を通じて1日あたり300バーツで据え置かれる。また二〇一四年と二〇一五年は全都県で最低賃金が1日あたり300バーツに据え置かれる。
ソムキアット次官は、今年第2四半期の経済成長率が4・2%増と第1四半期の成長率を上回ったのは、購買力の増加の結果だと主張している。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局のポラマティ・ウィモンシリ次長によれば、第10次国家経済社会開発計画期(二〇〇七~一一年度)にタイ経済の輸出依存率(GDPに占める輸出の比率)は70・5%に達し、第9次計画期(〇二~〇六年)の66・5%から上昇している。経済の輸出依存度が高まっていることを如実に示すもので、内需を大きくしてバランスを良くすることが重要な課題になっている。一方で、過去数か月間のインフレ率は3・3~3・5%増の想定を下回る2%台で推移しており、最低賃金の大幅引き上げは物価の上昇をもたらしていない。また一~六月の失業率も0・8%と低い水準を保っている。
ソムキアット次官によれば、最低賃金の大幅な引き上げは中小企業の約8割に影響を及ぼしているが、労働省、タイ商業会議所、タイ工業連盟が共同で実施した調査では、そのうちの99%は状況に順応することができていることがわかった。また賃金引き上げが過去7か月間に労働生産性の上昇に貢献したことも研究により明らかになっているとした。政府は四月の最低賃金引き上げに対応して、雇用者が毎月支払う社会保険の保険料を割り引いたり、社会保障基金がソフトローンを提供するなど、影響を緩和するための手段も導入している。
経済界は外需の不振と世界経済の減速を理由に最低賃金の再引き上げに反対している。タイ商業会議所(TCC)のプーミン・ハリンスン副会頭は、賃金の急激な引き上げは外国企業の逃避をもたらす可能性があるとしており、欧州の債務危機による世界経済の大変動期に採るべき政策ではないと批判している。同副会頭は、この政策を続ければ多くの中小企業が倒産するか、合理化のための首切りを余儀なくされるとし、来年には失業者が急増すると見ている。TCCによれば、賃金高の影響で今年に入ってから中小企業の7%が倒産している。労働集約型の工業では、最低賃金の上昇と人手不足からタイの工場をカンボジアやビルマに再配置する動きが出ている。
タイ衣料製造者協会のスキット・コンピヤチャーン会長は、衣料業界がユーロ危機と賃金高でダブルパンチを受けていると指摘。輸出価格を上げれば買い手がつかず、価格をそのままにすれば労働コスト高で赤字になるとしている。アタユット・リーヤワニット消費財・サービス使用者協議会事務局長は、来年からの300バーツ統一は、今年四月の引き上げよりも影響が大きいと指摘。もっと時間をかけてすべての関係者で議論すべきだとし、賃金委の性急な決定を批判している。タイ商業会議所大学(UTCC)景気予測センターのタナワット・ポンウィチャイ所長は、世界経済の先行き不透明で、一三年のタイの経済が悪化する可能性を指摘。全国一律300バーツの最低賃金の導入はマイナスになるとして、先送りを提案している。タイ工業連盟のソムマート・クンセート事務局長も、中小企業の適応能力が低いことを理由に、少なくとも一四年初めまで先送りするべきだと主張。一方、労働側は、労働者が物価高に苦しむ中、一五年まで最低賃金を300バーツに据え置くとした決定に強く反発している。
日付 : 2012年09月10日
By : 週刊タイ経済