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バーツ相場の下落続く 先安感強まる 国内政治情勢、量的緩和縮小観測が下押し

 バーツ相場の先安感が強まってきた。貿易収支の赤字転落で弱基調にある中、国内政治情勢が一一月から緊迫度を増したことで外国人投資家の信頼感が悪化し、投資マネーの流出が続いている。さらに米国経済が改善していることから、グローバル・マネーマーケットは米金融当局の量的緩和の規模縮小が近いと観測。これがタイを含む新興市場からの投資マネーの流出を促しており、バーツの下押し圧力となっている。バーツの対ドル・レートは1ドル=32バーツ台を突破した後、さらに下落している。

 タイ中央銀行のチャンタワーン・スチャリットクン総裁補は、バーツ相場が一一月だけで3%超下落したことについて、米連邦準備制度理事会(FRB)による緩和縮小をめぐる懸念よりは、国内要因によるところのほうが大きいと分析している。FRBの緩和縮小観測は一一月前半のバーツ安の一因になったものの、第3四半期(七~九月)のタイの経済成長率が予想以上に低かったことと政治緊張の高まりがバーツ安の主因との見方を示している。

 タイ中銀によれば、一一月にバーツは、アジア通貨の中ではインド・ルピーに次いで大きな下落率となった。バーツは一一月だけで3・2%下落している。チャンタワーン女史は、域内通貨の下落は海外投資マネーの域内からの流出によるところが大きいが、バーツの下げが突出した理由は国内要因に求めざるを得ないと述べている。

 バーツは一二月二日に1ドル32・16/32・18バーツとなり、一一月末の32・08/32・10バーツから下落した。この週末にはラムカムヘン大学周辺で死傷者が発生するという事件が発生している。タイ中央銀行はバーツの動きを密接に監視している。ただしバーツの急落は今に始まったものではなく、通貨当局も大きな懸念を抱いていない。一三年に入ってからのバーツ相場は変動が激しく、年初には急なバーツ高から、政府が資本流入に対する規制措置の発動をタイ中銀に求めたこともあった。四月二二日にはバーツ相場は1ドル=28・660バーツまで上昇。しかしその後は、FRBによる緩和縮小観測を受け、新興国通貨は下落している。バーツも弱基調が続き、今年九月六日には1ドル=32・404バーツまで下げている。

 チャンタワーン女史は、今年八月にバーツの急な下落とキャピタル・アウトフローを経験して以降、中銀がバーツ安と資本移動の不安定を和らげるための措置を用意したことで、その後の動きは穏やかになっていると述べている。一一月一日から二八日までの期間のキャピタル・アウトフローは約33億ドルと見積もられている。このうち15億ドルが株式市場からの流出で、18億バーツが債券市場からの流出。株式市場は年初から一一月末までの累計で48億ドルの流出となっている。一方で債券市場は同期に8億ドルのネットインフローとなっている。

 タイ中銀によれば、FRBによる緩和縮小観測が浮上した五、六月には30億ドルが流出しており、八月も1か月間で30億ドルが流出した。チャンタワーン女史は、こうした短期間での多額の資本流出で、通貨当局にはキャピタル・アウトフローに対処するための経験値がアップしていると述べている。なお一二月二日の株式市場では、SET株価指数が前営業日比0・23%上昇し、SET指数は1376・26ポイントとなった。売買代金は324億6000万バーツ。

 SCB証券のトンマクット・トンヤイCEOは、ドルが強くなっていることも資本流出を促していると分析している。国内政治問題とほぼ同時に、ドルの世界的な強基調が生じたため、バーツの下げ幅がより大きなものになった。外国人投資家は、中国、米国、EU、日本などの経済の回復傾向を受け、投資マネーのシフトを進めている。政治状況はタイの株式市場に短期的な影響を及ぼしているものの、2兆バーツのインフラ計画が潰れない限り、経済成長が続くことで株価も上向くと予測している。

 タイ中銀は政治デモの騒乱化という不測の事態を考慮して、商業銀行の事業継続計画(BCP)について議論するためのTV会議を開いている。デモが生じている地域の支店が閉鎖される事態になっても、金融サービスを通常通り提供できるよう、既存のBCPの確認を行なった。中銀はデモ発生地域での支店の閉鎖について、各行の判断に委ねる方針だが、報告は求めることにしている。二日には7つの商業銀行が47か所の支店の業務を見合わせた。

 FTIのパユンサック・チャートスティポン会長は、投資家の信頼感が悪化していると指摘。受注や投資への影響を警戒している。通常、第4四半期は多くの業種で業績好調となる時期だが、新たな契約は先送りされ、注文も入ってこない事態になっていると述べている。パユンサック会長は、デモの業況への影響は第1四半期まで続くとしている。

 米格付会社のムーディーズは、デモの先鋭化が外国人投資と観光に悪影響を及ぼすほか、政府のインフラ投資の遅延も招くとし、一四年のタイの経済成長を圧迫すると指摘している。タイの経済成長は第3四半期に前年同期比2・7%増と、第1四半期の5・4%増を下回っており、韓国、マレーシア、シンガポールなど成長率が上向いた国とは対照的になっていることを指摘している。自動車、エレクトロニクス、アグロインダストリーなどの輸出が鈍っており、構造的な弱さが成長鈍化の一因であることを示しているとした。



日付 : 2013年12月09日

By : 週刊タイ経済

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