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バーツ安が進行 1ドル=32B台後半に 米緩和縮小・政治不安で3年ぶりの水準

 米国連邦準備制度理事会(FRB)が一二月一八日に開いた公開市場委員会の会合で一四年一月からの量的緩和策の規模縮小を決めたことを受け、バーツの対ドル・レートは弱基調が続く見通しとなっている。国内政治情勢も視界不良が続いており、バーツ相場の下押し材料となっている。一二月二〇日のタイ中央銀行による参照レートは1ドル=32・537バーツまで下落し、3年ぶりのバーツ安水準となった。

 タイ中央銀行は一二月二〇日、金融政策委員会(MPC)と金融機関政策委員会(FIPC)の合同会合を開き、FRBによる緩和縮小がタイの金融市場や金融機関に及ぼす影響について検討した。合同会合は今年2回目となるもので、両委のメンバーは、FRBが緩和縮小を決定すると同時に、事実上のゼロ金利政策を長期化する姿勢を示したことを評価。グローバル・マネー・マーケットが比較的落ち着いた反応をしていることに安堵している。両委は、緩和縮小時期をめぐる観測に振り回されたグローバル・マネーマーケットの不透明感は緩和されるが、市場の動揺は続くとの見方で一致した。タイ中銀は、バーツ安について緩和縮小による域内通貨安に連動したものと説明している。一方で国内の政治問題の影響も認めている。

 バーツ相場は一三年一〇月には上昇基調にあったが、一一月に弱基調に転じている。一〇月平均のバーツ相場は1ドル=31・22バーツで、前月から1・5%上昇していたが、一一月には前月比で3%のバーツ安となり、一二月に入ってからも下げ続けている。米国経済の改善を受け、グローバル・マネー・マーケットが米金融当局の量的緩和の規模縮小が近いと観測したことに加え、国内政治情勢が一一月から緊迫度を増したことが理由となっている。また第3四半期(七~九月)のタイの経済成長率が予想以上に低かったこともバーツ安の一因となった。

 FRBによる緩和縮小は世界的なドル高をもたらし、アジア域内通貨は軒並み下落している。バーツ相場は一段と先安感が強まった格好だが、FRBによる緩和縮小が決定したことで、一四年の為替相場は一三年に比べると、より落ち着いた値動きになるものと期待されている。一三年のタイのマネー・マーケットは、世界経済が不安定になる中、米国の金融政策に対する市場の観測や反応に振り回された1年となった。バーツの対ドル・レートは、年初から上昇を続け、四月二二日に一三年の最高値となる1ドル=28・660バーツをつけた後は、下げ基調になっていた。

 一三年最初の四半期平均のバーツの対ドル・レートは1ドル=29・8バーツとなり、前の四半期、前年の同じ時期との比較で、それぞれ2・9%、3・9%上昇した。主要先進国の量的緩和で溢れたマネーがアジア域内に流入したもので、とくに日本銀行がデフレ克服のための異次元緩和の計画を発表して以降、バーツは域内の他の通貨以上に上昇した。政府は通貨当局に、利下げなどの市場介入を求め、政府・中銀の意見対立が大きく報じられた。

 四月下旬には、政府がバーツの上昇を抑制するための財政政策的な手段を講じる方針を固めたものの、この段階では政府や中銀による資本流入規制を警戒してバーツは反落していた。中銀の金融政策委員会(MPC)は五月二九日、政策金利を0・25%幅で引き下げて、年2・75%から2・50%に改めることを全会一致で決定し、即時実施した。

 しかし政府・中銀がバーツ高の対策に乗り出そうとした四月下旬から五月初めにかけて、グローバル・マネー・マーケットでは量的緩和の縮小観測が浮上し、インド・ルピーやインドネシア・ルピアなどのアジア域内通貨が下落し、バーツも弱基調に転じている。キャピタル・フローは純流出に転じ、バーツ高の懸念は遠のき、外国人投資家によるバーツ建て資産売却で株価は下落、長期金利(国債利回り)は上昇した。FRBの量的緩和の規模縮小を見越し、外国人投資家の投資マネーはタイの金融市場から流出を続けていた。

 バーツの対ドル・レートは第2四半期(四~六月)に下落した。量的緩和の縮小観測に加え、五月下旬に発表になった第1四半期のタイ経済の成長率が予想を下回るものになったこと、五月末に金融政策委員会が政策金利を0・25%幅で引き下げたことや、バーツに対する圧力を軽減するために、当局が為替市場に介入する方針を固めたことに対する投資家の懸念がバーツ安をもたらした。また中国の金融セクターの問題と中国経済の減速に対する投資家の懸念もバーツを含むアジア域内通貨安の一因となった。投資家はタイやアジア域内の各国から資金を移動させたため、バーツは下落を続け、六月末時点では1ドル=31・13バーツとなった。

 第3四半期(七~九月)平均のバーツ相場は1ドル=31・48バーツとなり、前の四半期平均に比べてさらに5・2%下落した。ただし九月の初めには、バーツは上昇を始めていた。FRBによる量的緩和の継続が観測された結果、アジア域内に投資マネーが還流したため。
 一一月以降のバーツ安は、複数の要因が絡んだもので、量的緩和の縮小は一因でしかない。またFRBは、五月に緩和縮小の可能性に言及した際に、新興国から米国への急激なマネーの逆回転が生じた経緯を踏まえ、緩和縮小を慎重に進めることを強調している。FRBが現在、実施している量的緩和は第3次のもので、失業率と雇用情勢を指標として、具体的な実施期限は設けていない。月850億ドルの証券を買い取る措置だが、一四年一月からは100億ドル減らす。FRBのバーナンキ議長は、緩和マネーの吸い上げを急がず、量的緩和は続くことを強調している。

 外為ディーラーは、短期的にバーツの弱基調は続くと見ている。1ドル=33バーツ台に下落すると見る通貨ディーラーが多いが、一三年に比べると相場は落ち着く見通し。

 一方、株式相場は方向性の定まらない状況が続きそう。年末にかけて国内ファンドによる買いが株価を下支えするほか、日米の株高が支援材料になるものの、政治的不確実性のため外国人投資家がタイ株を買い進めることはありそうにない。先週の株式市場は、緩和縮小が売り材料になる一方、LTFとRMFによる買いが株価を下支えした。二〇日時点のSET指数終値は1342・72ポイントで、前週末比0・12%上昇した。先週は機関投資家と個人投資家が買い越した一方、外国人投資家と証券会社(自己勘定)は売り越した。証券アナリストは一九、二〇日の株価の下落を主に国内政治情勢への懸念によるものと分析している。


日付 : 2013年12月23日

By : 週刊タイ経済

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