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政治デモ集会の長期化 14年の経済成長率を下押し

 カシコン銀行系シンクタンクのカシコン・リサーチ社(KRC)は「バンコク封鎖」の経済への影響は不透明だが、経済的損失の規模は二〇一一年の大洪水に比べれば遥かに少ないものになると指摘している。影響は封鎖の期間や、それに付随する事件の有無に左右されるため明確に評価することは難しい。バンコクの経済活動はタイのGDPの約30%を占めている。毎日の経済活動の価値は約100億バーツ。製造業の生産活動がストップすることは想定されておらず、製造業のサプライチェーン全体が大きな影響を受けた一一年の大洪水のような激しい経済的損失が生じることは想定しにくい。一一年の大洪水の経済的損失は世銀の見積もりで1兆4000億バーツに達している。

 KRCは、年半ばまでに新政権が発足し、直ちに経済刺激策が打ち出された場合、一四年の経済成長率は3・7%増に達すると予測している。新政権が発足できないケースでは経済成長率は2・5%増に低下する。国内消費は、家計債務の膨張と政治的不確実性が消費者の信頼感を悪化させていることが足枷となり、多くは期待できない状況。米欧の景気回復にともない物品輸出が上向くことが一四年の経済成長の牽引役になると期待されている。

 TISCO証券のエコノミストは、反政府デモ隊の行動の影響の大小は、封鎖される地域と治安に対する懸念に左右されるとしている。治安に対する懸念は、観光旅行業に打撃となるだけでなく、内需や外国人直接投資にもマイナスの影響をもたらす。このエコノミストは、たとえ二月の総選挙が実施され、新政権が発足することになったとしても、新政権が全力を挙げて取り組む課題は政治改革とならざるをえず、経済刺激策を実施する余裕はないとしており、新政権が発足しても経済成長を下支えする効果は限られると見ている。一方で、しかるべき理由もなく選挙が延期される場合には状況はさらに悪化し、直接投資は減速し、政治的不確実性は一段と高まるとしている。非常事態宣言が出されれば直接投資と観光業に対するもう一つのリスクになる。

 タイ商業会議所大学(UTCC)景気予測センターが一月二~七日に実施した事業者アンケート調査によれば、大半の事業者は、反政府集会「バンコク封鎖」が、外国人観光客数、ホテル予約、消費支出に影響するだけでなく、国のイメージにも影響が及ぶと考えている。タナワット・ポンウィチャイ所長は、デモ隊による「バンコク封鎖」の中長期的な経済的損失や影響の範囲を予測することは難しいと述べている。

 同センターは、政治が安定し、運輸インフラ投資が前進すれば、一四年のタイ経済は4%成長が可能になるが、もし二月二日の選挙投票後も反政府集会が続く場合、成長率は3・5%増程度にとどまるとしている。さらに選挙が無効になり、政治空白が長期化する最悪のシナリオでは成長率は3%増に満たなくなると見ている。

 タイ中央銀行のルーン・マリカマート広報担当は、政治デモの長期化と先鋭化が景気に下押し圧力となるなか、中銀の金融政策委員会(MPC)が一四年の経済成長率の下方修正を考えていることを明らかにした。ルーン女史は、MPCが政府支出、物品輸出、民間支出などの要素を評価した上で経済成長予測を見直す方針で、国内政治情勢の悪化が景気に及ぼす脅威は高まっていると述べている。MPCの一四年最初の政策決定会合は一月二二日に予定されている。

 MPCは一三年一一月に開いた同年最後の政策決定会合で、0・25%幅の利下げを決定しているが、この当時と比べても国内政治情勢は悪化している。この会合では一四年の経済成長率予測を前回会合時の4・8%増から4・0%増へと大幅に下方修正している。ルーン女史は、食品やLPGガス価格の上昇にもかかわらず、インフレ圧力が高まっていないことを指摘し、民間支出の動向次第で、追加利下げの余地があることを示唆している。

 経済界ではタイ商業会議所(TCC)、タイ工業連盟(FTI)が中心となって政治改革のための組織の設置を提案している。FTIのクリアンクライ・ティアンヌクン副会長によれば、設置するのは「改革機構(OFR)」で、25の民間団体の担当者で構成し、戦略を定めるとともに改革プロセスを推進する。TCCのウィチャイ・アサラサコーン副会頭は、OFRは法的根拠を確固たるものとするため、勅令の公布をもって発足させるとしている。

 経済界は当初、FTI、TCC、タイ銀行協会(TBA)に資本市場連合会、観光産業連合会、上場企業協会、タイ証券取引所(SET)を加えた7つの組織が、協議体を設置して、政府と反政府デモ隊の調停に乗り出していた。ウィチャイ商議所副会頭がそのスポークスマン役を務めている。ウィチャイ氏によれば、7団体は、改革をサポートする他の民間組織にも参加を呼びかけ、そのネットワークは25団体に広がっている。

 クリアンクライ氏は、改革機構(OFR)は総選挙投票日よりも前に発足させる必要があると主張している。OFRがまとめる改革プランは、政府、プアタイ党、民主党、反政府デモ隊や赤シャツ派に提示するとしている。経済界が独自に改革案のとりまとめを構想しているのは、協議体のあり方や協議の進め方で意見が一致せず、政府の提案する協議体には反政府デモ隊が不参加、反政府デモ隊の主張する国民会議は政府側が拒否しており、すべての関係者が改革の必要性を認めているにもかかわらず、改革論議を進めることはままならない状況にあることが背景にある。

 キティラット・ナ・ラノーン副首相兼財務相は、「バンコク封鎖」による経済的損失は予測不可能だが、景気減速の兆しはぼんやりと現われていると述べている。



日付 : 2014年01月20日

By : 週刊タイ経済

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