バンコクでの非常事態宣言 産業界は景気への影響を懸念
政府が一月二二日からの非常事態宣言に踏み切ったことを受け、産業界に懸念が広まっている。政府は現時点でデモ集会の制圧や排除を否定しており、夜間外出禁止命令なども出ていないため市民生活には大きな影響が及んでいないが、非常事態宣言は全世界で報道されており、国のイメージは失墜している。産業界は海外からの新たな投資誘致にマイナスになると見ており、影響は中長期に及ぶと見ている。
タイ商業会議所(TCC)のイサラ・ウォンクソンキット会頭は、非常事態宣言の影響の評価には時間が必要だが、国のイメージが悪化するのは必至だと見ている。多くの国が自国民のタイへの渡航に対する注意勧告のレベルを引き上げているため、観光産業に影響が出ることを心配している。また長期的には海外からの新たな投資に重大な影響が出ると見ている。TCCは、投資委員会(BOI)の本会議が開けずに、本会議決定を要する大規模な投資案件の投資奨励認可が滞ったままになっていることを懸念している。
産業界は非常事態宣言が一層の情勢悪化を引き起こしかねないことも警戒。政治対立の平和的な解決を当事者である政府とデモ隊側の双方に求めている。TCC、タイ工業連盟(FTI)、タイ銀行協会(TBA)の経済三団体は、タイ資本市場連合会、上場企業協会、タイ証券取引所(SET)などと提携して、政府と反政府派の話し合い解決のための仲介に乗り出していたが、政府、反政府派ともに聞く耳を持たないことから、仲介による政治対立解消の見込みはないと見て、仲介を断念。デモの影響を受けるビジネスや経済活動の支援に専念している。サハパタナピブン社のブンチャイ・チョークワタナー会長は、政府が治安維持法を発動した際も抗議者の数を減らすことはできなかったと指摘。非常事態宣言が暴力衝突を引き起こすことを心配していると述べている。
イサラ会頭は、デモの長期化で1日あたり5~7億バーツの損失が出ているとし、抗議デモがさらに続くなら損失額はさらに増大していくとしている。ただし世界経済が好転することで、輸出が上向く見通しにあり、タイの一四年の経済成長率は3~4%増を達成し、内需不振による影響はある程度、緩和されると予想しているが、反政府デモが長期化する場合には、3~4%増成長の希望も失われると述べている。
タイ荷主協会は一四年の物品輸出を前年比5%増と予測しているが、政治的不確実性が高まる中、早くも予測の信憑性が揺らいでいる。同協会理事のパイブーン・ポンスワン氏は、政治デモの影響で、海外のバイヤーが工場視察や新商品の品定めでタイを訪れる機会が減少していることを指摘。今後の輸出に影響が出てくると述べている。パイブーン氏によれば、中小のトレーダーはまだバンコクを訪問して、新たな注文について協議しているが、大企業の幹部クラスがバンコクを訪れることはなくなっている。政治デモの先鋭化を受け、今後、タイの輸出業者が確実に商品を出荷できるのかどうかを不安視する事業者も少なくないという。
パイブーン氏は、一月中に抗議デモが終わるなら一四年の物品輸出は5%増が見込めるが、デモがさらに長期化するようであれば輸出の成長は望めなくなるとしている。物品輸出はタイのGDPの約70%を占めている。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局は一四年の物品輸出を前年比7%増と予測している。
一三年の11か月間のタイの物品輸出は2100億ドルで、前年同期0・49%減となっている。パイブーン氏は第1四半期に日本からの買い注文が増えると期待している。タイ工業連盟のターニット・ソーラット副会長は、日米や中国の経済の回復は輸出にプラスになると指摘、三月または四月頃には輸出の回復は鮮明になると期待している。デモの影響が出ているのはバンコク市内中心部のみで、大半の貨物はチョンブリ県レムチャバン港から出荷されているため、抗議デモがバンコクに限定されている限り、輸出への影響はわずかなものにとどまるとしている。またデモ隊が関税局を包囲しても、スワナプーム空港やクロントイ港の税関は業務を続けているため、輸出入手続に大きな影響はない。ターニット副会長の出身業界である物流業界も、商品の搬送などで大きな影響は受けていないという。
タイ小売業協会も、政治デモの小売業への影響は大きくないとしている。デモ隊が封鎖するエリアの小売店は売上高が落ちているものの、全国の小売売上高に占める割合は数パーセントに過ぎない。政治混乱が迅速に終わるのであれば、非常事態宣言は支持できるとしている。消費者の信頼感の低下による影響もさほど大きなものにはならないと見ている。
タイ・コンドミニアム協会のタムロン・パンヤーサクンウォン会長は、非常事態宣言がデモ隊に対する圧力を強め、暴力衝突を引き起こすことを懸念していると述べている。また不動産業界にとって経営環境の悪化につながるとの認識を示している。一方、不動産コンサルタントのCBREタイランドの幹部は、現在生じている状況はバンコクまたはタイにとって別段新しいものではないと指摘。過去10年間にタイはクーデタ、世界経済危機、国内政治対立による暴動事件、大洪水を経験してきたが、それでも不動産の価値にはいささかも影響が及んでいないと指摘している。
日付 : 2014年01月27日
By : 週刊タイ経済
タイ商業会議所(TCC)のイサラ・ウォンクソンキット会頭は、非常事態宣言の影響の評価には時間が必要だが、国のイメージが悪化するのは必至だと見ている。多くの国が自国民のタイへの渡航に対する注意勧告のレベルを引き上げているため、観光産業に影響が出ることを心配している。また長期的には海外からの新たな投資に重大な影響が出ると見ている。TCCは、投資委員会(BOI)の本会議が開けずに、本会議決定を要する大規模な投資案件の投資奨励認可が滞ったままになっていることを懸念している。
産業界は非常事態宣言が一層の情勢悪化を引き起こしかねないことも警戒。政治対立の平和的な解決を当事者である政府とデモ隊側の双方に求めている。TCC、タイ工業連盟(FTI)、タイ銀行協会(TBA)の経済三団体は、タイ資本市場連合会、上場企業協会、タイ証券取引所(SET)などと提携して、政府と反政府派の話し合い解決のための仲介に乗り出していたが、政府、反政府派ともに聞く耳を持たないことから、仲介による政治対立解消の見込みはないと見て、仲介を断念。デモの影響を受けるビジネスや経済活動の支援に専念している。サハパタナピブン社のブンチャイ・チョークワタナー会長は、政府が治安維持法を発動した際も抗議者の数を減らすことはできなかったと指摘。非常事態宣言が暴力衝突を引き起こすことを心配していると述べている。
イサラ会頭は、デモの長期化で1日あたり5~7億バーツの損失が出ているとし、抗議デモがさらに続くなら損失額はさらに増大していくとしている。ただし世界経済が好転することで、輸出が上向く見通しにあり、タイの一四年の経済成長率は3~4%増を達成し、内需不振による影響はある程度、緩和されると予想しているが、反政府デモが長期化する場合には、3~4%増成長の希望も失われると述べている。
タイ荷主協会は一四年の物品輸出を前年比5%増と予測しているが、政治的不確実性が高まる中、早くも予測の信憑性が揺らいでいる。同協会理事のパイブーン・ポンスワン氏は、政治デモの影響で、海外のバイヤーが工場視察や新商品の品定めでタイを訪れる機会が減少していることを指摘。今後の輸出に影響が出てくると述べている。パイブーン氏によれば、中小のトレーダーはまだバンコクを訪問して、新たな注文について協議しているが、大企業の幹部クラスがバンコクを訪れることはなくなっている。政治デモの先鋭化を受け、今後、タイの輸出業者が確実に商品を出荷できるのかどうかを不安視する事業者も少なくないという。
パイブーン氏は、一月中に抗議デモが終わるなら一四年の物品輸出は5%増が見込めるが、デモがさらに長期化するようであれば輸出の成長は望めなくなるとしている。物品輸出はタイのGDPの約70%を占めている。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局は一四年の物品輸出を前年比7%増と予測している。
一三年の11か月間のタイの物品輸出は2100億ドルで、前年同期0・49%減となっている。パイブーン氏は第1四半期に日本からの買い注文が増えると期待している。タイ工業連盟のターニット・ソーラット副会長は、日米や中国の経済の回復は輸出にプラスになると指摘、三月または四月頃には輸出の回復は鮮明になると期待している。デモの影響が出ているのはバンコク市内中心部のみで、大半の貨物はチョンブリ県レムチャバン港から出荷されているため、抗議デモがバンコクに限定されている限り、輸出への影響はわずかなものにとどまるとしている。またデモ隊が関税局を包囲しても、スワナプーム空港やクロントイ港の税関は業務を続けているため、輸出入手続に大きな影響はない。ターニット副会長の出身業界である物流業界も、商品の搬送などで大きな影響は受けていないという。
タイ小売業協会も、政治デモの小売業への影響は大きくないとしている。デモ隊が封鎖するエリアの小売店は売上高が落ちているものの、全国の小売売上高に占める割合は数パーセントに過ぎない。政治混乱が迅速に終わるのであれば、非常事態宣言は支持できるとしている。消費者の信頼感の低下による影響もさほど大きなものにはならないと見ている。
タイ・コンドミニアム協会のタムロン・パンヤーサクンウォン会長は、非常事態宣言がデモ隊に対する圧力を強め、暴力衝突を引き起こすことを懸念していると述べている。また不動産業界にとって経営環境の悪化につながるとの認識を示している。一方、不動産コンサルタントのCBREタイランドの幹部は、現在生じている状況はバンコクまたはタイにとって別段新しいものではないと指摘。過去10年間にタイはクーデタ、世界経済危機、国内政治対立による暴動事件、大洪水を経験してきたが、それでも不動産の価値にはいささかも影響が及んでいないと指摘している。
日付 : 2014年01月27日
By : 週刊タイ経済