タイ中銀の金融政策委員会 政策金利据え置きを決定
タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は一月二二日に開いた政策決定会合で、政策金利を年2・25%の水準に据え置くことを決定した。足元の景気はMPCの予想以上に失速し、政治的不確実性が高まっているものの、政治情勢は景気回復に影響を及ぼす短期的なリスクに過ぎないと判断。タイ経済のファンダメンタルズは健全で、こうしたリスクに十分に対応できると見ている。MPCは、今後の期の景気の回復に対するしっかりとした基盤を構築する上で、国の金融の安定性を維持することが重要だとしている。
プラサーン・トライラットウォラクン総裁は会合後の会見で、世界経済は一三年一一月の前回会合以降も回復基調が続いていることを指摘している。とくに日米欧のG3の景気が上向いている。なかでも米国経済は国内需要が牽引する形でしっかりとした回復軌道にある。中国経済も成長が続いている。またアジア諸国の輸出も上向いてきた。
一方で、一三年第4四半期(一〇~一二月)のタイ経済は、国内需要の予想を超える失速を受け、MPCの予測以上に成長率が低下したもよう。この結果、一三年通年の経済成長率も一三年一一月時点の見積もりを下回る低成長にとどまる見通しとなっている。一一月からの反政府デモが消費者や企業の信頼感を悪化させているためで、政治的不確実性は今後の期における経済成長にも影響を及ぼすことが確実になっている。輸出は一部の工業部門で回復の兆しを見せているものの、全体として低成長の状況にある。
MPCが金利を据え置くか、あるいは追加利下げに踏み切るかをめぐって、エコノミストの直前予測は意見が割れた。スタンダード・チャータード銀行の上級エコノミストのウサラ・ウィライピット女史は、政治緊張によって経済成長が低下するリスクを抱えている一方で、利下げはキャピタル・アウトフローを加速させることにもなりかねず、MPCは困難な決断を迫られると指摘していた。
政治デモの長期化と治安悪化への懸念は消費者の信頼感を蝕みつつある。海外投資マネーも政治的不確実性を嫌い、米国の景気回復が鮮明化していることもあって、タイのマネーマーケットからの投資マネーの流出が続いている。これが3年ぶりのバーツ安をもたらしている。バーツ安はタイの輸出にはプラスになるものの、輸入コストは上昇することになり、インフレ圧力を高める。一方で、新政権の発足がいつになるのか誰も予想できない状況にあり、選挙管理の暫定内閣の下では経済成長を下支えするための景気対策も望めない。景気への配慮からは利下げは妥当な判断になるが、政策金利の引き下げが商業銀行による市中金利の下落につながるのかどうかは予測不可能となっている。ウサラ女史は、二二日の会合前、MPCが政策金利を引き下げる可能性は低いものの、追加利下げを決断しても驚かないとしていた。
TMB銀行のベンチャロン・スワンナキリ調査部担当副頭取は、MPCによる利下げは期待できず、成り行き次第のスタンスを採るのではないかと予測していた。しかしMPCは経済活動を刺激するため一三年一一月の前回会合では0・25%幅での利下げを決断している。当時に比べても経済環境は一段と悪化しているだけに、エコノミストの中には利下げに踏み切ると予測する者もあった。資産バブルの兆しもなく、インフレ圧力も低位にとどまっている今、MPCには政策金利引下げの余地があると見ている。
HSBCグローバル・リサーチは0・25%幅での追加利下げを予想し、その後も追加利下げを実施すると予測し、今年上半期末時点の政策金利は年1・75%まで下がるとしていた。またタイ中銀が年内に金利正常化のために利上げに転じることはありそうにないと予測している。HSBCは政治情勢の悪化も考慮し、二〇一四年と一五年のタイの経済成長率の予測を下方修正している。最新の予測値は一四年が3・5%増、一五年が4・5%増で、従来の予測値は4・4%増、5・2%増だった。
民間のエコノミストの見方が割れたのと同様に、MPCの委員の見解も分かれた。プラサーン総裁が明らかにしたところによれば、この日の会合では金利の据え置きを主張した委員が4人に対し、0・25%幅での追加利下げを主張した委員が3人で、4対3の多数決で金利の据え置きが決まっている。追加利下げを主張した委員は、経済成長が見込み以上に低下する一方で、インフレ率が低位にあるため、利下げによる景気下支えの余地があると見ている。しかしプラサーン総裁によれば、現行の金融政策が緩和型であり、国内政治緊張という短期的なリスクの中でも景気の回復を支援することは可能だとする意見が上回った。総裁は、多数意見は、長い目で見れば金融の安定を維持することが重要だと判断したと説明している。
MPCが政治リスクは短期的だと強調し、金利を据え置いたのは、すでに現在の金融政策が十分に緩和的で、政策金利の下げ余地が乏しいことも背景にありそうだ。政治危機は長期化する可能性が日増しに濃厚になっており、二月二日の総選挙が実施されたとしても、国会を召集することはできず、政治空白は長引くことになる。MPCが今回、追加利下げを実施した場合、政策金利は年2・00%となり、三月に開く次回会合時にも政治混乱が続いていた場合、追加利下げが困難になるとの判断が働いた可能性がある。政府が非常事態を宣言したばかりで、今後の政治情勢が読めない上、マネーマーケットの反応も不確かな中、利下げの効果を見積もることも難しい。また政府が国際社会の印象を悪くすることを覚悟の上で、非常事態宣言に踏み切ったことで、政治混乱がそう遠くない時期に収拾に向かうことを期待した可能性を指摘するエコノミストもいる。あるエコノミストは状況が改善すれば、三月の追加利下げも不要になるとしている。
タイ経済の現状は、政治緊張と家計債務の膨張が個人消費を萎縮させ、経済成長を下押ししている。このためMPCは昨年一一月の前回会合では市場の予測を裏切って0・25%幅の利下げを決定した。当時と比べて政治情勢は一段と緊張度を高めている。また昨年一二月に政府が下院を解散したことで、一四年の経済成長を促進する材料として期待されていた3500億バーツの治水プロジェクトや2兆バーツの運輸インフラ開発プロジェクトも遅延が確実な情勢になっており、景気展望は悪化している。プラサーン総裁は、MPCが今回会合で、一三年の経済成長率が3%増に満たないものにとどまったと見積もったこと、一四年の経済成長率は前回会合時の予測の4%増を下回る3%増程度に下方修正したことを明らかにしている。
しかしプラサーン総裁はタイ経済のファンダメンタルズは、健全であり続けていると主張している。ただし現在進行中の政治問題が国の長期的な競争力の低下、ソブリン格付の引き下げなどによる金融コストの上昇をもたらす恐れがあることを指摘しており、情勢次第で次回会合以降の利下げの可能性があることを示唆している。総裁は現在のバーツ相場とインフレ率が経済を支援していると主張している。総裁は、MPCが景気動向を密接に監視し、適切な行動を取る用意があるとし、必要であれば金利は下げるとしている。
なおMPCはこれまで2会合ごとに『金融政策リポート』(旧インフレーション・リポート)を刊行してきたが、一四年からは四半期ごとに変更するとしており、次号の刊行は、次回会合後の三月二一日を予定している。
日付 : 2014年01月27日
By : 週刊タイ経済
プラサーン・トライラットウォラクン総裁は会合後の会見で、世界経済は一三年一一月の前回会合以降も回復基調が続いていることを指摘している。とくに日米欧のG3の景気が上向いている。なかでも米国経済は国内需要が牽引する形でしっかりとした回復軌道にある。中国経済も成長が続いている。またアジア諸国の輸出も上向いてきた。
一方で、一三年第4四半期(一〇~一二月)のタイ経済は、国内需要の予想を超える失速を受け、MPCの予測以上に成長率が低下したもよう。この結果、一三年通年の経済成長率も一三年一一月時点の見積もりを下回る低成長にとどまる見通しとなっている。一一月からの反政府デモが消費者や企業の信頼感を悪化させているためで、政治的不確実性は今後の期における経済成長にも影響を及ぼすことが確実になっている。輸出は一部の工業部門で回復の兆しを見せているものの、全体として低成長の状況にある。
MPCが金利を据え置くか、あるいは追加利下げに踏み切るかをめぐって、エコノミストの直前予測は意見が割れた。スタンダード・チャータード銀行の上級エコノミストのウサラ・ウィライピット女史は、政治緊張によって経済成長が低下するリスクを抱えている一方で、利下げはキャピタル・アウトフローを加速させることにもなりかねず、MPCは困難な決断を迫られると指摘していた。
政治デモの長期化と治安悪化への懸念は消費者の信頼感を蝕みつつある。海外投資マネーも政治的不確実性を嫌い、米国の景気回復が鮮明化していることもあって、タイのマネーマーケットからの投資マネーの流出が続いている。これが3年ぶりのバーツ安をもたらしている。バーツ安はタイの輸出にはプラスになるものの、輸入コストは上昇することになり、インフレ圧力を高める。一方で、新政権の発足がいつになるのか誰も予想できない状況にあり、選挙管理の暫定内閣の下では経済成長を下支えするための景気対策も望めない。景気への配慮からは利下げは妥当な判断になるが、政策金利の引き下げが商業銀行による市中金利の下落につながるのかどうかは予測不可能となっている。ウサラ女史は、二二日の会合前、MPCが政策金利を引き下げる可能性は低いものの、追加利下げを決断しても驚かないとしていた。
TMB銀行のベンチャロン・スワンナキリ調査部担当副頭取は、MPCによる利下げは期待できず、成り行き次第のスタンスを採るのではないかと予測していた。しかしMPCは経済活動を刺激するため一三年一一月の前回会合では0・25%幅での利下げを決断している。当時に比べても経済環境は一段と悪化しているだけに、エコノミストの中には利下げに踏み切ると予測する者もあった。資産バブルの兆しもなく、インフレ圧力も低位にとどまっている今、MPCには政策金利引下げの余地があると見ている。
HSBCグローバル・リサーチは0・25%幅での追加利下げを予想し、その後も追加利下げを実施すると予測し、今年上半期末時点の政策金利は年1・75%まで下がるとしていた。またタイ中銀が年内に金利正常化のために利上げに転じることはありそうにないと予測している。HSBCは政治情勢の悪化も考慮し、二〇一四年と一五年のタイの経済成長率の予測を下方修正している。最新の予測値は一四年が3・5%増、一五年が4・5%増で、従来の予測値は4・4%増、5・2%増だった。
民間のエコノミストの見方が割れたのと同様に、MPCの委員の見解も分かれた。プラサーン総裁が明らかにしたところによれば、この日の会合では金利の据え置きを主張した委員が4人に対し、0・25%幅での追加利下げを主張した委員が3人で、4対3の多数決で金利の据え置きが決まっている。追加利下げを主張した委員は、経済成長が見込み以上に低下する一方で、インフレ率が低位にあるため、利下げによる景気下支えの余地があると見ている。しかしプラサーン総裁によれば、現行の金融政策が緩和型であり、国内政治緊張という短期的なリスクの中でも景気の回復を支援することは可能だとする意見が上回った。総裁は、多数意見は、長い目で見れば金融の安定を維持することが重要だと判断したと説明している。
MPCが政治リスクは短期的だと強調し、金利を据え置いたのは、すでに現在の金融政策が十分に緩和的で、政策金利の下げ余地が乏しいことも背景にありそうだ。政治危機は長期化する可能性が日増しに濃厚になっており、二月二日の総選挙が実施されたとしても、国会を召集することはできず、政治空白は長引くことになる。MPCが今回、追加利下げを実施した場合、政策金利は年2・00%となり、三月に開く次回会合時にも政治混乱が続いていた場合、追加利下げが困難になるとの判断が働いた可能性がある。政府が非常事態を宣言したばかりで、今後の政治情勢が読めない上、マネーマーケットの反応も不確かな中、利下げの効果を見積もることも難しい。また政府が国際社会の印象を悪くすることを覚悟の上で、非常事態宣言に踏み切ったことで、政治混乱がそう遠くない時期に収拾に向かうことを期待した可能性を指摘するエコノミストもいる。あるエコノミストは状況が改善すれば、三月の追加利下げも不要になるとしている。
タイ経済の現状は、政治緊張と家計債務の膨張が個人消費を萎縮させ、経済成長を下押ししている。このためMPCは昨年一一月の前回会合では市場の予測を裏切って0・25%幅の利下げを決定した。当時と比べて政治情勢は一段と緊張度を高めている。また昨年一二月に政府が下院を解散したことで、一四年の経済成長を促進する材料として期待されていた3500億バーツの治水プロジェクトや2兆バーツの運輸インフラ開発プロジェクトも遅延が確実な情勢になっており、景気展望は悪化している。プラサーン総裁は、MPCが今回会合で、一三年の経済成長率が3%増に満たないものにとどまったと見積もったこと、一四年の経済成長率は前回会合時の予測の4%増を下回る3%増程度に下方修正したことを明らかにしている。
しかしプラサーン総裁はタイ経済のファンダメンタルズは、健全であり続けていると主張している。ただし現在進行中の政治問題が国の長期的な競争力の低下、ソブリン格付の引き下げなどによる金融コストの上昇をもたらす恐れがあることを指摘しており、情勢次第で次回会合以降の利下げの可能性があることを示唆している。総裁は現在のバーツ相場とインフレ率が経済を支援していると主張している。総裁は、MPCが景気動向を密接に監視し、適切な行動を取る用意があるとし、必要であれば金利は下げるとしている。
なおMPCはこれまで2会合ごとに『金融政策リポート』(旧インフレーション・リポート)を刊行してきたが、一四年からは四半期ごとに変更するとしており、次号の刊行は、次回会合後の三月二一日を予定している。
日付 : 2014年01月27日
By : 週刊タイ経済