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政治デモ長期化の影響 外資系製造業に投資先送りの動き

 タイ商業会議所(TCC)、タイ工業連盟(FTI)、タイ銀行協会(TBA)の経済3団体は三日に開いた合同常任委員会の定例会合で、政治情勢と景気展望について話し合った。政治混乱が長期化した場合には一四年の経済成長に大きな影響が及ぶとの認識で一致した。FTIのパユンサック・チャートスティポン会長は、民間部門が現在進行中の政治混乱が、国内消費や投資だけでなく外国人直接投資にも影響を及ぼすことを懸念していると述べている。経済3団体は、上半期中の新政権の発足は絶望的と見ており、民間部門はこの難局を自ら切り抜ける覚悟が必要だとしている。

 経済界は、政治空白の長期化が、短期的には景気下支えや景気刺激に寄与する政府支出の不足という形で経済に悪影響を及ぼすほか、長期的には投資環境や投資家の信頼感にマイナスの影響を及ぼすことで、経済全般にマイナスになると見ている。政府支出の不足のほか、選挙管理の暫定政権下で投資委員会(BOI)の大規模投資案件の認可も滞ったままとなっている。パユンサック会長は、一五年にASEAN経済共同体(AEC)の発足を迎える中、現在の政治対立状況が続き、近隣国が目覚しい発展を遂げた場合、タイの競争力は低下していくだけだと述べている。

 昨年のタイ経済は年後半に息切れし、個人消費や民間投資は低迷している。一三年の経済成長率は3%増を下回った可能性が高く、政治混乱の長期化は国内支出の回復を困難にしている。パユンサック会長は、外国人投資家はタイの政治混乱を嫌気して近隣諸国に目を向けていると指摘。長い目で見ればこれがタイの競争力を弱めることになるとしている。

 既製工場レンタルのタイコン・インダストリアル・コネクション社のウィラパン・プンケート社長は、政治情勢の悪化を受け、外資系製造業のタイへの投資に先送りの動きが広まっていることを明らかにしている。ただし、タイの今後の経済成長や輸出市場の回復などからタイに対する信頼感は失われていないとしている。ウィラパン社長は、最近の日本での投資説明会の結果を踏まえて、日本企業はまだタイでの工場建設に関心を示していると述べている。同社長は日本や欧州からの投資は政治問題のため、20%程度、見込みを下回っている状態にあるとしている。ウィラパン社長によれば、タイに初めて進出しようとするいくつかの外国企業が、工業団地の土地購入や既製工場の賃貸借の計画を延期していることを明らかにしている。海外の親会社がタイの政局を不安視していることが理由。

 工業団地造成のヘマラート・ランド&デベロップメント社のデイビッド・ナルドン社長兼CEOも、新規顧客の1~2割は、政治情勢悪化を理由に土地購入の決定を先送りしていると述べている。ただしナルドン氏は、政治デモが長期化したとしても、投資を延期する企業の割合はこれ以上は増えないと見ている。特に自動車工業では、輸出向け生産の計画が目白押しで、部品メーカーの投資などはタイ国内の景気動向には左右されないため。ヘマラートの既存顧客は、運輸分野の大規模インフラ開発計画が、タイの景気の拡大をもたらすことを期待して投資を継続している。タイコンのウィラパン社長も、タイで活動している外国企業を中心に、外国企業のタイへの投資は今後も続くとの見方を示している。ウィラパン氏は、政治危機は今年下半期に収束し、新政権が発足すると見ていることを明らかにしている。タイコンは一四年の総収入の目標を前年比20%増に置いている。
 ヘマラートは一四年の総収入の伸びが1桁増にとどまると見ている。主力の工場用地分譲の目標は、前年の2200~2300ライを下回る1600ライに設定している。ナルドン社長兼CEOは、総収入の伸びが低くなるのは、昨年度は不動産ファンドへの資産売却による臨時収入があり、比較ベースが高くなっていることが一因だとしている。また工場用地の分譲目標は保守的に見積もったもので、追って目標を引き上げることもあるとしている。ヘマラートは、今年終わりにもイースタンシーボード(ラヨン)工業団地に近い3200ライの土地に自社8番目の工業団地を設ける計画を明らかにしている。

 経済3団体合同常任委員会は、政治空白は今年上半期続くと見ており、経済的損失は1200億バーツに達すると試算している。1年間続いた場合には2400億バーツに膨れ上がる。一四年のタイの経済成長率は潜在能力を下回りそうで、インドネシア、ベトナム、カンボジアなどの他の東南アジア諸国が5~6%増の成長率を記録しそうなこととは対照的な低成長にとどまる見通しとなっている。政治空白で、政府部門からの経済刺激は望めなくなり、国内投資と消費は、消費者や投資家の信頼感の低下が理由で減速傾向が続くことになる。
 パユンサックFTI会長は、一二年度予算の執行の遅れが、一三年の経済成長に影響を及ぼしたことを指摘し、一四年上半期の政治空白で一〇月からの一五年度予算の編成作業にも取り掛かれないことを危惧している。タイ中央銀行のプラサーン・トライラットウォラクン総裁は、政治混乱は政府支出を下押しするものの、今年度予算の執行には影響がないことを指摘。ただし政治空白が長期化すると、一五年度予算法の制定と予算執行に影響が及ぶとしている。

 財務省主計局は、政治混乱が続いていることは二〇一四年度予算の執行にも影響を及ぼすと指摘している。特に投資予算に関しては、一部プロジェクトの入札が延期を余儀なくされる。マナット・ジェムウェーハー局長は、反政府デモ隊による政府機関の封鎖も予算執行プロセスへの障害になると述べている。

 今年九月末に期末を迎える二〇一四年度の歳出予算総額は2兆5300億バーツ。年度内の執行目標は経常的経費が95%、投資的経費が82%に設定されている。マナット局長は、1億バーツを超えるプロジェクトの入札は所轄大臣または内閣の承認が必要となることを指摘。下院解散後の選挙管理内閣は選挙法によって、選挙後の新政権を拘束することになる事案を承認することができない。

 マナット主計局長は、予算執行が予算年度の第2四半期に当たる一~三月期より減少を始めるものと予測している。一四年度の最初の四半期の政府予算の執行額は9220億バーツで、歳出予算総額全体の36・6%。政府が定めた執行目標を上回っている。財務省本部はデモ隊により封鎖されているが、マナット局長は公務員への俸給支払いに支障は来たさないことを重ねて強調している。マナット局長によれば、初めての新車購入者に対する税還付措置では、これまでに78万2544人の新車購入者に対し、合計557億バーツを還付している。



日付 : 2014年02月10日

By : 週刊タイ経済

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