景気失速で利下げ観測が強まる 12日の金融政策決定会合に注目
足元の景気が失速する中、タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)が三月一二日に開く金融政策決定会合が注目されている。MPCは年明け最初の一月二二日に開いた政策決定会合で、政策金利を年2・25%の水準に据え置くことを決定しているが、当時と比べてタイ経済を取り巻く環境が一段と悪化しているため、マネーマーケットやエコノミストは一二日の会合で少なくとも0・25%幅の利下げを決定するものと観測している。
足元の景気は一月時点と比べてもMPCの予想以上に失速し、政治的不確実性も高まっている。MPCは一月の段階で、政治情勢は景気回復に影響を及ぼす短期的なリスクに過ぎないと判断。タイ経済のファンダメンタルズは健全で、こうしたリスクに十分に対応できるとしたが、ここに来て政治空白の長期化は不可避になっている。財政政策による景気刺激が期待できない中、金融政策への期待も高まっている。
MPCの一月の会合後、経済環境や政治情勢は変化している。一三年の経済成長率はMPCの見積もりを下回るものになり、国内需要の冷え込みは一段と厳しいものになっている。外需も一月の物品輸出はプラス成長になったものの、二月には再びマイナス成長に転じている。また国内政治情勢は反政府デモの長期化と爆弾事件の多発など、悪化の一途を辿っている。
一四年の経済成長に関しては、国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局や財務省財政局を初め多くの機関が予測を下方修正しており、タイ中銀自身も下方修正を予定している。ソムチャイ・サッチャポン財政局長は、輸出の不振が続く場合、経済成長率は2%未満にとどまる可能性もあると指摘している。
カシコン・リサーチ・センター社(KRC)は一四年の成長率を3%増と予測しているが、上半期中に新政権が発足しない場合、経済成長率は一三年を下回る2%増まで低下し、政治暴動が発生する場合には、さらに0・5%幅で成長率は低下すると見ている。またCIMBタイ銀行調査部は、タイ経済が第2四半期に景気後退局面を迎える可能性に言及している。サイアム商業銀行(SCB)調査部は、物品輸出が5%増を実現したとしても今年の経済成長率は2・4%増にとどまると予測している。
世界経済は一月の前回会合以降も回復基調が続いている。とくに日米欧のG3の景気が上向いている。米国経済は国内需要が牽引する形でしっかりとした回復軌道にある。中国経済も成長が続いている。またアジア諸国の輸出も上向いてきている。このように対外経済環境は好転しつつあるが、商業省が二月下旬に発表した一月のタイの物品輸出額は179億700万ドルで、前年同月比1・98%減となっており、貿易相手国経済の回復が輸出増につながっていない。商業省統計によれば、一月の農業/アグロインダストリー製品の輸出は7・5%減となっている。天然ゴムは、ゴム相場が4年ぶりの安値になったことに加え、中国や日本の在庫が高水準にあることで輸出が減少した。また冷凍エビ・加工品はEMS(早期死亡症候群)の流行問題に直面しており、日本、米国、カナダといった主力市場からの引き合いが細っている。砂糖の輸出は世界市場の在庫が高水準にあることに加え、日本、韓国、ミャンマー、シンガポール、カンボジアからの引き合いが細っている。一部の工業製品は輸出が上向いているものの、工業製品全体では引き続き収縮している。特に自動車の輸出は22・0%減となっている。一月の輸出額を仕向け地別に見ると、主力市場向けは2・2%増となっており、主力市場向け輸出が上向いていることは明るい材料になるものの、ASEAN、中国、インドなどを含む有望市場向けの輸出は全体で5・0%減となった。タイ工業連盟(FTI)のパユンサック・チャートスティポン会長は、世界経済ならびに地域経済が回復基調にあることで、タイ経済は4~5%増の成長ポテンシャルを有しているが、政治的な騒動が続けば達成することは難しいと述べている。
一方、一三年第4四半期(一〇~一二月)のタイ経済は、国内需要の予想を超える失速を受け、成長率が低下している。昨年一一月からの反政府デモが消費者や企業の信頼感を悪化させているためで、政治的不確実性は今後の経済成長にも影響を及ぼすことが確実になっている。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局が二月に発表したGDP統計によれば、一三年第4四半期の成長率は0・6%増となり、前の四半期の2・7%増から減速している。一三年のタイ経済は2・9%増にとどまり、家計消費支出は0・2%増、総固定資本形成(投資)と輸出額はそれぞれ1・9%、0・2%収縮している。一三年第4四半期には、家計消費支出は4・5%減となり、前の四半期の1・2%減からマイナス幅が拡大している。主因は耐久財消費の収縮で、なかでも乗用車の販売台数が大幅減となっている。総固定資本形成(投資)は11・3%減で、前の四半期の6・3%減から収縮幅が拡大した。政府投資が4・7%減となったほか、民間投資は13・1%減となり、前の四半期の3・1%減から収縮幅が増している。
一方、工業省工業経済事務局が二月末に発表した一月の工業生産指数(MPI)は、前年同月比で6・4%減となった。前年同月比でのマイナス成長は10か月連続。設備稼働率は61・76%にとどまり、前年同月の67・15%から低下した。
タイ中央銀行が二月二八日に発表した一月の業況判断指数(BSI)は、7か月連続で中間値を下回った。指数は45・4ポイントとなっている。製造業と非製造業の双方の事業者の信頼感が低下している。とくに国内外からの受注、生産、業績、生産コストに対する信頼感が落ち込んでいる。投資の信頼感は良好な水準を保っているものの、指数は前月を下回っている。
3か月先に関しては、業況感は現在よりも幾分上向く見通しとなっている。3か月先のBSIは52・0ポイント。主に製造業の信頼感が上向く見通しで、生産指標が改善している。一方、非製造業の事業者は現在から横ばいと見ており、受注が上向かないことが理由となっている。
事業経営上の制約は、政治的不確実性、商品値上げの困難さ、経済情勢の不確実性、生産コストの上昇、国内市場での競争の激化が上位に入った。とくに反政府デモの長期化を受け、政治情勢に対する懸念を事業経営のリスクと回答した企業の比率は一月に顕著に上昇し、バンコクでの暴動事件のあった二〇一〇年四月以来、最多の回答数となっている。
MPCは一月に開いた前回会合で政策金利を据え置いたものの、MPC委員の見解は分かれた。金利の据え置きを主張した委員が4人に対し、0・25%幅での追加利下げを主張した委員が3人で、4対3の多数決で金利の据え置きが決まっている。追加利下げを主張した委員は、経済成長率が見込み以上に低下する一方で、インフレ率が低位にあるため、利下げによる景気下支えの余地があると見ている。また一月の段階では、政府が非常事態を宣言したばかりで、今後の政治情勢が読めなかった上、マネーマーケットの反応も不確かな中で、利下げの効果を見積もることは難しかった。
前回会合時点でも、政治危機は長期化する可能性が日増しに濃厚になり、二月二日の総選挙が実施されたとしても国会を召集することはできず、政治空白は長引くことが想定されていた。結局、選挙は実施されたものの、バンコク都の一部と南部地方で反タクシン派の妨害行動があり、全国69選挙区の1万283か所の投票所では投票ができなかったことや、一月二六日の不在者投票も集計できないため、各候補者の得票数などは発表されていないまま、すでに30日以上が過ぎている。憲法規定では総選挙投票日から30日以内の国会開会が定められている。
MPCが前回、金利を据え置いたのは、すでに現在の金融政策が十分に緩和的で、政策金利の下げ余地が乏しいことも背景にありそうで、一二日の会合でも金利据え置きの判断をする可能性はある。MPCが一二日の次回会合で、追加利下げを実施した場合、政策金利は年2・00%となり、この先も政治混乱が続く場合、それ以上の追加利下げは困難になる。ジンラック暫定政権の地位を左右する憲法裁判の判決や籾米担保貸付政策の汚職容疑での弾劾・訴追の是非の決定などは四月までには出る見通しで、政治情勢が景気の先行きに及ぼす影響は、その段階での再検討が必要になる。
カシコン・リサーチ・センター社は、MPCが政策金利を据え置くと予測している。TMB銀行調査部も、景気は減速しているものの、後退しているわけではないことや、政治情勢に好転の兆しが見えてきていることを理由に、政策金利の据え置きを予測している。これに対し、サイアム商銀調査部は、利下げを予測しており、0・5%幅での引き下げもあり得ると見ている。
日付 : 2014年03月10日
By : 週刊タイ経済
足元の景気は一月時点と比べてもMPCの予想以上に失速し、政治的不確実性も高まっている。MPCは一月の段階で、政治情勢は景気回復に影響を及ぼす短期的なリスクに過ぎないと判断。タイ経済のファンダメンタルズは健全で、こうしたリスクに十分に対応できるとしたが、ここに来て政治空白の長期化は不可避になっている。財政政策による景気刺激が期待できない中、金融政策への期待も高まっている。
MPCの一月の会合後、経済環境や政治情勢は変化している。一三年の経済成長率はMPCの見積もりを下回るものになり、国内需要の冷え込みは一段と厳しいものになっている。外需も一月の物品輸出はプラス成長になったものの、二月には再びマイナス成長に転じている。また国内政治情勢は反政府デモの長期化と爆弾事件の多発など、悪化の一途を辿っている。
一四年の経済成長に関しては、国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局や財務省財政局を初め多くの機関が予測を下方修正しており、タイ中銀自身も下方修正を予定している。ソムチャイ・サッチャポン財政局長は、輸出の不振が続く場合、経済成長率は2%未満にとどまる可能性もあると指摘している。
カシコン・リサーチ・センター社(KRC)は一四年の成長率を3%増と予測しているが、上半期中に新政権が発足しない場合、経済成長率は一三年を下回る2%増まで低下し、政治暴動が発生する場合には、さらに0・5%幅で成長率は低下すると見ている。またCIMBタイ銀行調査部は、タイ経済が第2四半期に景気後退局面を迎える可能性に言及している。サイアム商業銀行(SCB)調査部は、物品輸出が5%増を実現したとしても今年の経済成長率は2・4%増にとどまると予測している。
世界経済は一月の前回会合以降も回復基調が続いている。とくに日米欧のG3の景気が上向いている。米国経済は国内需要が牽引する形でしっかりとした回復軌道にある。中国経済も成長が続いている。またアジア諸国の輸出も上向いてきている。このように対外経済環境は好転しつつあるが、商業省が二月下旬に発表した一月のタイの物品輸出額は179億700万ドルで、前年同月比1・98%減となっており、貿易相手国経済の回復が輸出増につながっていない。商業省統計によれば、一月の農業/アグロインダストリー製品の輸出は7・5%減となっている。天然ゴムは、ゴム相場が4年ぶりの安値になったことに加え、中国や日本の在庫が高水準にあることで輸出が減少した。また冷凍エビ・加工品はEMS(早期死亡症候群)の流行問題に直面しており、日本、米国、カナダといった主力市場からの引き合いが細っている。砂糖の輸出は世界市場の在庫が高水準にあることに加え、日本、韓国、ミャンマー、シンガポール、カンボジアからの引き合いが細っている。一部の工業製品は輸出が上向いているものの、工業製品全体では引き続き収縮している。特に自動車の輸出は22・0%減となっている。一月の輸出額を仕向け地別に見ると、主力市場向けは2・2%増となっており、主力市場向け輸出が上向いていることは明るい材料になるものの、ASEAN、中国、インドなどを含む有望市場向けの輸出は全体で5・0%減となった。タイ工業連盟(FTI)のパユンサック・チャートスティポン会長は、世界経済ならびに地域経済が回復基調にあることで、タイ経済は4~5%増の成長ポテンシャルを有しているが、政治的な騒動が続けば達成することは難しいと述べている。
一方、一三年第4四半期(一〇~一二月)のタイ経済は、国内需要の予想を超える失速を受け、成長率が低下している。昨年一一月からの反政府デモが消費者や企業の信頼感を悪化させているためで、政治的不確実性は今後の経済成長にも影響を及ぼすことが確実になっている。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局が二月に発表したGDP統計によれば、一三年第4四半期の成長率は0・6%増となり、前の四半期の2・7%増から減速している。一三年のタイ経済は2・9%増にとどまり、家計消費支出は0・2%増、総固定資本形成(投資)と輸出額はそれぞれ1・9%、0・2%収縮している。一三年第4四半期には、家計消費支出は4・5%減となり、前の四半期の1・2%減からマイナス幅が拡大している。主因は耐久財消費の収縮で、なかでも乗用車の販売台数が大幅減となっている。総固定資本形成(投資)は11・3%減で、前の四半期の6・3%減から収縮幅が拡大した。政府投資が4・7%減となったほか、民間投資は13・1%減となり、前の四半期の3・1%減から収縮幅が増している。
一方、工業省工業経済事務局が二月末に発表した一月の工業生産指数(MPI)は、前年同月比で6・4%減となった。前年同月比でのマイナス成長は10か月連続。設備稼働率は61・76%にとどまり、前年同月の67・15%から低下した。
タイ中央銀行が二月二八日に発表した一月の業況判断指数(BSI)は、7か月連続で中間値を下回った。指数は45・4ポイントとなっている。製造業と非製造業の双方の事業者の信頼感が低下している。とくに国内外からの受注、生産、業績、生産コストに対する信頼感が落ち込んでいる。投資の信頼感は良好な水準を保っているものの、指数は前月を下回っている。
3か月先に関しては、業況感は現在よりも幾分上向く見通しとなっている。3か月先のBSIは52・0ポイント。主に製造業の信頼感が上向く見通しで、生産指標が改善している。一方、非製造業の事業者は現在から横ばいと見ており、受注が上向かないことが理由となっている。
事業経営上の制約は、政治的不確実性、商品値上げの困難さ、経済情勢の不確実性、生産コストの上昇、国内市場での競争の激化が上位に入った。とくに反政府デモの長期化を受け、政治情勢に対する懸念を事業経営のリスクと回答した企業の比率は一月に顕著に上昇し、バンコクでの暴動事件のあった二〇一〇年四月以来、最多の回答数となっている。
MPCは一月に開いた前回会合で政策金利を据え置いたものの、MPC委員の見解は分かれた。金利の据え置きを主張した委員が4人に対し、0・25%幅での追加利下げを主張した委員が3人で、4対3の多数決で金利の据え置きが決まっている。追加利下げを主張した委員は、経済成長率が見込み以上に低下する一方で、インフレ率が低位にあるため、利下げによる景気下支えの余地があると見ている。また一月の段階では、政府が非常事態を宣言したばかりで、今後の政治情勢が読めなかった上、マネーマーケットの反応も不確かな中で、利下げの効果を見積もることは難しかった。
前回会合時点でも、政治危機は長期化する可能性が日増しに濃厚になり、二月二日の総選挙が実施されたとしても国会を召集することはできず、政治空白は長引くことが想定されていた。結局、選挙は実施されたものの、バンコク都の一部と南部地方で反タクシン派の妨害行動があり、全国69選挙区の1万283か所の投票所では投票ができなかったことや、一月二六日の不在者投票も集計できないため、各候補者の得票数などは発表されていないまま、すでに30日以上が過ぎている。憲法規定では総選挙投票日から30日以内の国会開会が定められている。
MPCが前回、金利を据え置いたのは、すでに現在の金融政策が十分に緩和的で、政策金利の下げ余地が乏しいことも背景にありそうで、一二日の会合でも金利据え置きの判断をする可能性はある。MPCが一二日の次回会合で、追加利下げを実施した場合、政策金利は年2・00%となり、この先も政治混乱が続く場合、それ以上の追加利下げは困難になる。ジンラック暫定政権の地位を左右する憲法裁判の判決や籾米担保貸付政策の汚職容疑での弾劾・訴追の是非の決定などは四月までには出る見通しで、政治情勢が景気の先行きに及ぼす影響は、その段階での再検討が必要になる。
カシコン・リサーチ・センター社は、MPCが政策金利を据え置くと予測している。TMB銀行調査部も、景気は減速しているものの、後退しているわけではないことや、政治情勢に好転の兆しが見えてきていることを理由に、政策金利の据え置きを予測している。これに対し、サイアム商銀調査部は、利下げを予測しており、0・5%幅での引き下げもあり得ると見ている。
日付 : 2014年03月10日
By : 週刊タイ経済