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2月に景気が予想以上に失速 第1四半期はマイナス成長も タイ中央銀行月例経済報告

 政治混乱が長期化していることによる政治空白は、国内支出に従来の予想を上回る影響を及ぼしている。また政府の予算執行にも制約が生じており、来年度予算編成も遅れている。今年のタイ経済は、輸出が唯一の成長エンジンとなりそうで、通年の経済成長率は二〇一三年を下回りそうな見通し。タイ中央銀行が三月三一日に発表した月例経済金融報告によれば、二月の景気は引き続き収縮している。プラサーン・トライラットウォラクン中銀総裁は、一四年第1四半期(一~三月)の経済成長は、前四半期比でマイナスになり、景気後退局面入りのリスクに直面していると警告している。(3面に関連記事、18~19面に中銀データ)

 中銀の月例報告によれば、一四年二月期の景気は全体として前月から収縮した。政治混乱が長期化していることで、家計と企業が、消費と投資の双方で支出に慎重になっている。これに沿って物品輸入と工業生産は収縮した。また観光業では政治デモの影響が強まっている。一方、物品輸出は外需のトレンドに沿って上向いた。

 二月の民間消費指数(速報値)は前年同月比2・5%減となった。耐久財と非耐久財の双方で消費が収縮したことによるもので、家計は支出に慎重になっている。加えて家計の債務は依然として高水準にある。また景気が減速していることは所得にも影響を及ぼし始めている。民間消費は今後も減速が続きそう。政治混乱の長期化が消費者の信頼感を悪化させていることに加え、家計債務も高どまりしている。また家計の購買力も、景気の減速と農産物価格の下落を受け、農業部門と非農業部門の双方で悪化しているため、家計は今しばらく支出に慎重になるものと見られる。

 二月の民間投資指数は前年同月比7・7%減。事業者は経済・政治情勢を見極めるため、投資を先送りしている。このため設備投資は、商用車への投資が収縮しているほか、機械・機器の輸入は特に電子、電機、自動車工業で減少を続けている。一方、建設投資は景気に沿って減速した。民間投資は、今後も一定程度の期間、特に新規の投資で減速を続ける見通し。事業者の信頼感は中間値の50ポイントを下回っており、経済・政治情勢を様子見する姿勢が強まっている。ただし事業者への聞き取り調査からは、一部の企業は生産効率改善のための投資を続けている。

 供給サイドでは、二月の農業所得は前年同期比で大幅に減速した。また季節調整済みの前月比でも6・5%減となっている。農業生産は前年同月比で1・9%増となった。天然ゴム、パーム椰子の生産が栽培面積増にともない増加している一方、コメとキャッサバの生産は雨量や気候条件に恵まれなかったことが理由で減少している。また主要農産物の価格は、籾米担保貸付制度外の1級籾米の価格が1トンあたり7827バーツとなるなど、昨年半ば以降、下落し続けている。前年同期比では25・9%減となる。政府保管米の放出増で、市場出荷量が増えたことが主因。天然ゴムはRSS3号の原料価格が平均で1㎏あたり59・57バーツとなり、前月平均の65・17バーツから下げた。前年同期比では27・6%減となっている。

 キャッサバの価格は1㎏あたり2・26バーツとなり、前月の2・13バーツから上昇した。前年同月比では10・8%増。国内外でのエタノール原料としての需要が増加している。中国ではサトウキビを代替燃料生産に使用することを禁じており、中国からのキャッサバの引き合い増につながっている。パーム椰子の価格は平均で1㎏あたり5・52バーツとなり、昨年半ば以降、強基調が続いている。前年同期比では63・3%増。指標となるマレーシアのパーム油価格の上昇に一致したもので、食用とバイオディーゼル生産での需要増が寄与している。また代替商品である大豆の価格が世界的に上昇していることも関係している。

 畜産品の価格は前月から上昇し、前年同月比では13・9%増となった。豚、肉鶏、鶏卵の価格が上昇している。天候不順で生産が需要増に追いつかなかった。養殖エビの価格は高止まりしており、前年同月比では77・3%増となった。疫病の流行で生産量が細る一方で、国内外の需要は依然として高水準にある。

 一方、二月の工業生産は前年同月比4・4%減となった。国内需要の減速によるもので、政治混乱長期化による信頼感の低下が一因となっている。また輸出向け生産も依然として収縮している。ただし世界経済の回復にともない一部の工業では上向く兆しも出ている。

 輸出比率が30%以下の国内向け生産を中心とする工業の生産は前年同月比で2・5%収縮した。国内需要の減速に加え、二月から三月にかけて製油所2か所が定期修理に入ったことが響いている。また昨年に資金繰り難に陥った冷凍鶏肉大手サハファームの生産がまだ正常なレベルに戻っていない。

 輸出比率が30%超60%以下の工業の生産は前年同月比で12・1%減少した。主に自動車の生産が落ち込んだ。自動車メーカー各社は減産に入っている。海外からの注文は増えているものの、国内販売の不振を穴埋めするには至っていない。

 輸出比率が60%超の工業の生産は前年同月比1・2%減となった。主にハード・ディスク・ドライブ(HDD)の生産が減少している。消費者の嗜好がパソコンからスマートフォンやタブレットにシフトした結果、HDD需要が減少し続けている。このためHDDメーカーはエンタープライズ向けHDDの生産にシフトしているが、コンシューマー向けHDDの需要減を穴埋めするには至っていない。このほか新型ゲーム機向けのHDDの買い付けが増えていた反動減もある。いずれにしてもエアコン、IC、スポーツ衣料などの生産は前年同月比で伸びている。世界経済の回復のほか六月に開幕するサッカーW杯効果が生じている。

 二月の工業部門の設備稼働率は59・2%で、前月から低下した。

 プラサーン中銀総裁は、第1四半期の経済成長が前四半期比でマイナスになったとの見通しを示し、第2四半期も同様にマイナス成長となった場合には、景気後退(リセッション)局面入りすることを指摘している。ただし失業率は低く、第3、第4四半期には景気が回復するとの見通しから、景気後退局面入りするかどうかは中銀の心配事ではないとした。また金融緩和は消費者と投資家の信頼感を押し上げるが、その効果は現在の状況下では限りがあるとの認識も示している。

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)や財政局は最新の経済予測で、一四年の経済成長率を大幅に下方修正しているが、それでも経済予測は年半ばに新政権が発足することを前提としている。しかし憲法裁判所による総選挙無効判決を受け、景気対策を打ち出すことができる新政権の発足時期は見えない情勢となっている。年央の新政権発足は困難になりつつあり、経済成長率予測の前提条件が崩れ始めている。政治空白の長期化は、政府の投資政策が障害に直面し、また民間部門の投資も同様に政府部門によるプロジェクトの許認可に問題を抱えている。こうした政治的不確実性は、官民の投資全体に予想以上に大きな打撃を及ぼしており、雇用や消費支出にも影響が波及している。

 国内需要は下半期に入ってからも低迷が続きそうで、カシコン・リサーチ・センター社(KRC)は一四年の民間支出を0・1%増、総固定資本形成(投資)を2・2%減と見積もり、通年の経済成長率予測値を3・0%増から1・8%増へと下方修正した。新政権が年央までに発足することはなく、政府支出が最終四半期(一〇~一二月)に落ち込むことを前提としている。一五年度予算は期初の一〇月どころか、年内の成立も期待できず、一四年度予算をベースにした暫定予算しか組むことができない。KRCは、可能性は少ないものの、新政権が七月までに発足する場合には政府の景気対策の導入と投資支出が加速することで経済成長率は2・4%増が見込めるとしている。一方で、政治対立の長期化が消費と投資に激しい影響を及ぼし、輸出の回復も予想以上に遅れ、伸びが3%増程度になる場合、経済成長率は1・3%増にとどまると見ている。

 パトラ証券は、新政権が年央までには発足することを前提に、一四年下半期の経済成長率は5%増に達すると予測している。上半期は0・6%増で、通年の成長率は2・8%増となる。しかし予測の前提だった年央までの新政権の発足は怪しくなり、下半期に5%増の成長を期待することは難しくなりつつある。ただし物品輸出は世界経済の好転を受け、回復の兆しが見えているため、輸出という唯一の成長エンジンが停止しない限り、プラス成長は維持できると見ている。


日付 : 2014年04月07日

By : 週刊タイ経済

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