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タイの銀行システム評価 ムーディーズの展望は安定的

 タイの政治緊張が高まる中、米格付会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、タイの銀行システムの展望は依然として安定的だと評価している。ムーディーズのアナリストは、最近発表したタイの銀行システムの分析レポートで、金融市場の資金流動性は安定していることを強調している。
 ムーディーズのアナリストのアルカ・アンバラス氏は、政治的な緊張で二〇一三年終わり以降、経済成長は低下し、消費を下押ししているほか、投資も先送りの動きが目立つが、銀行の資産の質はわずかな劣化にとどまるとの見方を示している。向こう1年から1年半は銀行の不良債権が増えそうだが、各行の自己資本基盤は強固で、予防的に引当金を積むなど慎重な経営に努めていることから、タイの銀行システムの展望は安定的だと考えているとした。
 ムーディーズが今回発表したレポートは、タイの銀行システムの向こう12~18か月を展望するもので、各銀行の格付にも影響を及ぼす。経営環境、資産の質、自己資本、資金調達、流動性、利益生成能力と効率性などのカテゴリーに分けて検証している。タイの銀行システムのレポートでは、経営環境は悪化を見通しているが、それ以外のカテゴリーは安定的だと評価している。ムーディーズのレポートは、政治混乱がインフラ開発のための政府支出の能力を制限しており、政治空白が長期化する、または暴動へエスカレートする場合には、投資家の信頼感は悪化するとしている。また銀行の資産の質に関しては、ムーディーズのレポートは、個人ローンや中小企業向け貸付の劣化が予想されるものの、大企業向けの融資に関しては弾性を持つため、部分的に穴埋めされるとしている。また近年の政治的な誘因を理由の一つとする消費者ローンの拡大は、家計の債務返済能力の低下をもたらしていると指摘している。さらに中小企業は、銀行が与信基準を厳格化し、クレジットフローを制限しているため、経済情勢の変化に最も無防備なことを指摘している。
 ムーディーズのレポートは、タイの銀行が主として国内の預金をベースとした資金調達を行なっており、インターバンク市場その他からの借入に大きく依存していないことを指摘している。また銀行の持つ流動性資産は潤沢で、政治的な懸念を動機とする突然の預金流出にも対応できると見ている。収益性に関しては、今後1~1年半は直近の3年間に比べて低下すると見ている。
 一方、スタンダード&プアーズ(S&P)は、ジンラック首相の失職について、タイのソブリン格付に即時的な効果を及ぼすものではないとしている。ただしすでに停滞している景気を一層落ち込ませる可能性があるため、格付の方向性にはマイナスになるとしており、格付の方向性を「ネガティブ」に改める可能性を示唆している。首相の失職は、S&Pが想定した政治不安増のケースに組み入れたシナリオの一部であり、格付の方向性を定めるにあたってある程度織り込み済みだった。ただ、この憲法裁判所判決により、反政府派と政府支持派の和解はより困難なものになり、最終的に軍が関与することになりかねない両派の暴力的衝突のリスクは高まっている。S&Pはさらに、首相の失職が、やり直し総選挙の日程のさらなる延期につながり、七月二〇日の投票は延期になると見ている。企業や消費者の信頼感は悪化し続けており、政治的不確実性が今後も長期間にわたって持続すれば、経済成長の展望も悪化することになる。
 S&Pのアナリストは、政治的不安定が過去に発生した状況を越えて悪化する事態になれば、経済活動にも重大かつ広範な影響を及ぼすことは必至となるため、ソブリン格付を引き下げることもあるとしている。S&Pも、タイの経済ファンダメンタルズが健全で、比較的強固なことを認めており、これがある程度までクッションの役割を果たすと見ているが、政治空白の長期化が政府投資の減少、民間消費や投資の低迷をもたらすため、経済成長率は低下すると見ている。



日付 : 2014年05月19日

By : 週刊タイ経済

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