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軍政は治安維持、懸案処理を優先 暫定内閣発足は2~3か月後?

 五月二二日に政権を掌握したプラユット・チャンオーチャー陸軍司令官は、五月二六日に陸軍本部において、国王による国家平和秩序維持団(コーソーチョー)団長任命の勅命を拝受後、国内外に向けて演説に臨んだ(28面を参照)。

 その内容の骨子は、①施政は勅命に基づくもので、合法。②私が全権限を持つ。③官公庁と軍が協力して行政責任を果たす。④対立問題を解決する機関を設置する。⑤対立行動は厳しく取り締まる。⑥国民の生活、経済活動に支障が出ないよう配慮する。⑦軍の利益のために政権掌握に動いたわけではない。⑧理解と時間が欲しい。⑨タクシン派との対立を望んでいない。⑩軍は民主主義を理解しており、過去の教訓を活かしながら民主主義制度に戻す。⑪緊急実施するのは籾米担保の未払い問題など、国民の困苦をもたらしている懸案事項。⑫顧問団を設置して行政を進めていく。⑬インターネット上を含め各メディアには対立を煽る言論がないようにして欲しい。

 プラユット大将は演説後の記者の質問に対し、暫定首相の任命、選挙実施の時期などについて、いずれも国内の情勢次第だと答えている。まず赤シャツ派の武装勢力の摘発、掃討を優先し、爆弾テロなどの発生を抑止できる、あるいは軍政への大規模な反対運動が起きないという確認が持てるようになった段階で、次のステップに移る考え。事態が落ち着いてきた段階で暫定憲法を公布し、その規定下で暫定内閣、立法議会などを発足させることになる。五月三〇日夜の国民向けテレビ演説では、暫定憲法公布まで2~3か月、その後、総選挙まで1年を見ていることを明らかにするとともに、スケジュールは治安情勢次第だとも語っており、民選政権が誕生するのは順調に推移しても来年終わり頃か再来年初め頃になる見通し。

 プラユット大将は二九日に全国の軍幹部とのビデオ会議で、今後のステップについて説明している。第1ステップでは、軍政下にあっても、なるべく民政下と同じ施政をし、第2段階で国家改革に向けた立法議会、国民会議の設置と審議、第3段階で選挙を実施し、民政移管するというもの。

 軍政の構造は二二日の布告第二二号により、各軍の司令官と陸軍の幹部が各分野の官公庁を監督する体制がとられている。各省の次官が大臣代行となり、監督者である軍人の裁可を得ながら懸案事項を処理、予算執行を進めていく。前政権の投資プロジェクトは見直しを含め、軍側と各省庁の幹部が調整作業に入っている。

 コーソーチョーは五月二六日に発表した命令第二二号で、10人からなる顧問団を任命している。顧問団長にはアピシット民主党政権で国防大臣を務めたプラウィット・ウォンスワン陸軍大将が、副団長にはプラユット大将の上司だったアヌポン・パオチンダー前陸軍司令官、プリディヤトーン・テワクン元財務相・元タイ中央銀行総裁の2人が就任、軍人以外の顧問にはソムキット・チャトゥシーピタック元財務相、ナロンチャイ・アカラセラニー元商業相、ウィサヌ・クルアガーム元副首相(法学者)、ヨンユット・ユッタウォン元科学技術相(科学者)が任命されている。ソムキット氏とナロンチャイ氏はタクシン政権の経済閣僚だったが、その後タクシン氏とは距離を置いている。経済政策ではソムキット氏が日本を初め外国との経済外交面を担当するとされている。なお今回任命された顧問は暫定内閣で大臣を務める可能性もある。

 一方、コーソーチョーの報道官が二七日に明らかにしたところによると、プラユット大将は国内対立解消に向けた機関として「改革のための和解センター」を設置するよう陸軍の四つの地方管区司令部に命じた。各地方のセンターではセワナー(フォーラム)を開催するとしているが、活動の詳細は不明。

 そのほか五月二三日から先週にかけてのコーソーチョーによる動きをまとめると次のようになる。

 一、報道規制。二三日午後5時から地上波TV、一般ラジオ局、二四日午後3時から地上波デジタルTV、衛星TV、有線TVの放送再開を許可する一方で、インターネット監視を強化。

 二、二四日に上院議会を廃止する一方、国家会計検査委員会、国家汚職防止取締委員会、選挙委員会、国家オンブズマン、最高裁政治職者刑事法廷は存続。

 三、出頭命令の対象を拡大。出頭しない者に対しては軍事法廷での裁判と金融取引禁止措置を導入。

 四、不敬罪、治安関連罪の容疑、コーソーチョー布告・命令違反は軍事法廷で審判。

 五、二八日から夜間外出禁止時間を0時から4時までに短縮。

 六、稲作農民への未払い金支払いを急ぐとともに、借金取立人による不当な督促を禁止。

 七、アドゥン警察庁長官、タリット・ペンディット特別事件捜査局長ほか前政権寄りの官僚を更迭。

 八、違法武器所持者に対する特赦措置。

 【警察幹部などを更迭】

 コーソーチョーは前政権寄りの姿勢を明確にしていた高級官僚を次々に更迭している。特に警察機構はタクシン派幹部の牙城であることから大掛かりなパージが進められている。二四日にはコーソーチョーの副団長で特別事業分野の監督者になっているアドゥン・センシンケーオ警察庁長官が総理府付きに異動となった。これに合わせワチャラポン・プラサーンラーチャキット警察庁副長官が長官代行に就任している。反タクシン派への訴追に積極的に取り組んできたタリット・ペンディット特別事件捜査局長も総理府付きに異動となった。その代行にはチャチャワーン・スックソムチット警察庁副長官が起用されている。ジンラック首相の意向で次官に登用されていたニパット・トーンレック国防省次官も総理府付きになった。

 警察庁ではタクシン元首相と香港で面会するなど、タクシン氏との親密な関係にあったカムロンウィット・トゥープクラチャン首都警察司令官をはじめ、タクシン派警察官僚が次々に更迭されている。北部、東北部の地方警察の幹部多数が更迭処分を受けた。チェンマイ県警本部長も、二三日にチェンマイ空港で出国を阻止されたタクシン元首相の長男パントンテー氏を手引きしたとして、バンコクに呼び戻されている。警察機構は昨年からの反政府集会を狙った襲撃事件で、1人も容疑者を逮捕していない。

 今後は国営企業理事会も入れ替えが予想されている。

 【UDDリーダー釈放】

 二二日に身柄を拘束されていた赤シャツ派中央執行部の幹部6人が二八日に解放されている。UDD議長のチャトゥポン・プロムパン氏などで、戒厳令に基づき令状なしで拘束できる7日間いっぱいまで軍施設に収容されていたことになる。UDDによると6人は同じ建物に拘禁されていた。厳しい取調べなどを受けていないという。プアタイ党関係者、前政権関係者も身柄を解放されており、ジンラック前首相はバンコクの自宅で「謹慎中」と見られている。

 なお三〇日に解放された「ランボー・イサーン」ことスポン・アタウォン元下院議員は、政治から手を引くことを発表した。同氏は東北部、北部で義勇隊を組織、軍がクーデタを起こせば徹底抗戦するとしていた人物。またウドンタニ県の赤シャツ派リーダー、クワンチャイ・プライパナー氏も、反対集会を組織しないと語っている。

 一方のPDRCの幹部13人は二六日に解放された。その足で検察庁に出頭、内乱罪容疑で特別事件捜査局員の事情聴取に応じた後、保釈金10万バーツを払って帰宅している。ステープPDRC事務局長は二〇一〇年五月の赤シャツ派集会の強制散会時の死者発生により殺人罪で起訴されているため、刑事裁判所にも出頭、同じく保釈金を払って勾留を免れている。

 コーソーチョーが出頭命令を出した人数は200名を超えており、出頭した者は当日に帰宅を許される者、数日間軍の施設に収容された者に分かれている。赤シャツ派、タクシン派に属する活動家、政治家の中には命令を無視して出頭しない者が数十人にのぼっているもようだが、当局は出頭命令に応じない者に対して軍事裁判にかけることを布告している。二七日には出頭命令に応じていなかったチャトゥロン・チャイセーン前教育相が外国人記者クラブに現れ、軍に連行されている。同氏は命令違反のため軍の施設ではなくバンコク拘置所に収容されており、保釈申請も却下されている。

 当局は出頭命令に応じない者に対し、出国禁止、金融取引・財産に係る取引禁止で締め上げようとしているが、ジャルポン・ルアンスワン前内相、赤シャツ派のレッドサンデー代表のソムバット・ブンガームアノン氏などは逃走を続けている。

 【クーデタ反対集会阻止】

 コーソーチョーは五月二九日午後3時過ぎ、クーデタ反対集会が連日開かれていた戦勝記念塔の周囲を閉鎖し、交通も遮断した。クーデタ反対集会は二四日から発生、数百人規模になっていた。

 地方部での武器闘争グループの摘発も続けられている。二三日夜には東北地方コンケン市内のアパートで大量の武器を押収するとともに、21人を逮捕した。いずれも赤シャツ派の義勇隊に関係する男たちで、武器による闘争でUDD幹部から指示を受けていたことを自供しているという。二六日には東部のトラート県の農園でマシンガンや手榴弾が押収されている。二月に同県で発生、子供2人が死亡した爆弾テロ事件の容疑者2人が逮捕されている。


日付 : 2014年06月02日

By : 週刊タイ経済

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