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前政権の高速鉄道計画は棚上げに 籾米担保貸付の巨額損失負担が遠因

 国家平和秩序維持団(コーソーチョー/NCPO)は、プアタイ党政府が計画していた4本の高速鉄道計画を棚上げし、事実上廃止する方針だ。前政権は、バンコクと北部のピッサヌローク、南部のフアヒン、東部のラヨン、東北部玄関のナコンラチャシマを結ぶ4本の高速鉄道を二〇一九年までに完成させる計画を示していたが、開発には少なく見積もっても7000億バーツはかかるため、財源の確保が困難になっている。

 前政権は、この高速鉄道を含め、2兆バーツの運輸インフラ開発構想を打ち出していた。財源は特別立法で確保することとし、財務省に借入権限を付与する法令案を起草し、国会を通過していたが、憲法裁判所はこの法律案に違憲判断を下している。特別立法による財源確保が不可とされたことで、財源探しは困難になっている。軍政筋は、多額の費用と開発によって生じる国益を天秤にかければ、棚上げはやむをえないとしている。

 NCPOは、前政権が計画した2兆バーツ・プロジェクトの総額を1兆2000億バーツに減らした上で、年度予算や借入金、官民連携手法(PPP)を複合的に活用することで継続する方針。優先的に実施するプロジェクトは、①鉄道複線化、②モーターウェイ、③地方での国道4車線化、④バンコク首都圏の電車路線の延長、など。これらのプロジェクトは、通常の承認プロセスを経て、プロジェクト・オーナーとなる機関が国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局に申請し、審査を経て、九月に発足する暫定内閣が閣議決定することになる。

 ソムチャイ・シリワタナチョーク運輸省次官が統括する運輸戦略委員会は一一日、合計3兆バーツに達する運輸インフラ開発計画を取りまとめている。軍政の意向に従い、高速鉄道プロジェクトは外したものの、水運と空運のインフラ整備で複数のプロジェクトを追加した結果、前政権が計画した2兆バーツを1兆バーツ上回る規模となっている。ただしソムチャイ次官によれば、二〇二二年までの長期計画となっており、六月一九日に経済行政を監督するプラチンNCPO副団長(空軍司令官)に提出することにしている。ソムチャイ次官によれば、水運と空運のプロジェクトを追加・拡充したのは、プラチン副団長の意向に沿ったもの。

 チュラ・スックマノップ運輸交通政策企画事務局長によれば、4車線道路、港湾開発などは年度予算で開発する一方、電車プロジェクトや国鉄複線化は国内外からの借入によるものになると説明している。PPPを活用するプロジェクトにはモーターウェイを想定している。ノンタブリ県バンヤイとカンチャナブリを結ぶ路線やパタヤとマプタプットを結ぶ路線が計画されている。バンヤイ~カンチャナブリ・モーターウェイは、土地収用・不動産補償費52億バーツを含めて開発費用は556億バーツ。環境アセスメント(EIA)とプロジェクト・設計はすでに完成している。このほか、アユタヤ県バンパイン~ナコンラチャシマ間のモーターウェイは、開発費用846億バーツで、EIAは二〇〇六年に承認されている。パタヤ~マプタプット間のモーターウェイは開発費用142億バーツ。

 財務省筋は、前政権が実施した籾米担保貸付政策で生じた損失が、インフラ開発のための財源確保にとっても足枷になっていると説明している。損失の解消には少なくとも5、6年を要する見通し。前政権が一一/一二年度の年度米から5期にかけて実施した籾米担保貸付政策では、政府は7300億バーツの資金を借りており、その金利負担だけでも年間200億バーツに達している。損失額は公式な数値が明らかになっていないものの、5000億バーツ規模に達するものと見積もられている。

 この政策は農家の所得を押し上げることで、内需を拡大させることが狙いだったが、政府は米価が上がるとの希望的観測の下で実質的に買い上げたコメを貯め込んだ。しかしコメの相場は政府の思惑とは裏腹に下落。担保代金の支払いに困った前政府は、保管米を売り急いだため、逆に米価の急落をもたらした。

 軍政はクーデタ後すぐにこの問題の解決に着手、920億バーツの担保代金の支払いを進めているが、資金は財務省が保証する銀行借入などで賄っている。国による国営企業の債務の保証額は最高で歳出総額の20%までと公的債務管理法で定められているため、財務省による国営企業債務の保証能力も制約を受けている。タイの現在の公的債務残高は約5兆5500億バーツで、GDPの46%に相当している。一一年の前政権発足時の公的債務残高はGDP比40・78%の水準だった。

 コメ輸出業者は、政府が過去3年間に蓄積した保管米は1500~1600万トンに達すると見積もっている。籾米担保政策は打ち切られ、政府保管米が新たに増えることはないものの、これだけの在庫を一掃するには最長で3年はかかりそう。売り急げば米価の下落を招く。タイ・コメ輸出業者協会の五月の統計によれば、タイ米(5%白米)の輸出価格は1トンあたり390ドルで、ベトナム米の405ドル、インド米の435ドル、パキスタン米の440ドルを下回っている。

 前政権時の野党だった民主党は、鉄道複線化プロジェクトを優先的に実施するとした軍政の決定を、費用対効果の高さや公共の利益に資することを理由に支持している。同党の広報担当者は、大規模インフラ事業の実施にあたっては、その資金規模よりも費用対効果や国益を中心に選別すべきだとしている。鉄道複線化はロジスティック・コストを低減し、燃料消費の節約につながる。同党広報は、鉄道複線化プロジェクトは、民主党のチュアン政権時に構想されたものであることを強調している。一旦は棚上げになったこのプロジェクトは、同じく民主党のアピシット政権時に復活し、総額1700億バーツの基本計画がまとめられた。民主党は高速鉄道プロジェクトに関しては、バンコク~ノンカイ・ルートが最も費用対効果が高いと述べている。この高速鉄道ルートも、アピシット政権時には中国政府との共同開発を模索していた。

 NCPOは運輸インフラ・プロジェクトを直ちに実施するもの、3~5年で実施するものと、5~7年で実施するものの3つの段階に分割している。進行中のプロジェクトは即時実施の部分に分類され、電車プロジェクトではレッドライン、パープルライン、ブルーライン、グリーンラインが該当する。ピンクラインとオレンジラインは3~5年の投資プロジェクトに分類されている。


日付 : 2014年06月16日

By : 週刊タイ経済

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