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カンボジア人労働者の流出収まる 軍政は就労者リスト提出を要求

 クーデタ後に軍がカンボジア人労働者の摘発、殺害に動いているという噂が広まったことで、カンボジア人労働者が大挙して出国する騒ぎとなったが、事態は先週末までに沈静化した。軍政当局は現時点での取締強化は考えていないと弾圧の噂を否定。外国人労働者問題の解決方針はあくまで人身売買、違法ビジネスの摘発を優先するとし、長期的な解決を目指して外国人被雇用者リストの提出を事業者(使用者)に求めている。

 カンボジア人労働者の出国が目立って増えたのは六月一〇日以降。国家平和秩序維持団(コーソーチョー/NCPO)はこの日、NCPO副団長(タナサック・パティマパコーン国軍最高司令官)を委員長とする外国人労働者問題管理政策委員会と国軍参謀長を委員長とする外国人労働者問題管理連絡調整小委員会を設置、長年の懸案である違法外国人労働者の問題解決に動き出した。またタイは米国政府によって人身売買の要監視国に指定されており、六月二〇日に年次見直しが発表されることになっていた。タイの外国人労働者問題は欧州でも問題視する国が出てきており、フランスのカルフールが魚粉工場での外国人強制労働を理由にタイからの水産加工品輸入を中止するというニュースもあったことから、軍政もこの問題を急ぎ解決する必要性に迫られていた。

 カンボジア人労働者はサムットプラカン県や東部諸県を中心に約40万人が正規に就労しているが、違法労働者の数は当局も掌握していない。就労業種は労働条件の厳しい工場、漁業、農業、レストランなどのサービス業、建設業など、タイ人の雇用が難しい業種。賃金は一日300バーツの最低賃金が基準で、カンボジア国内での賃金約100バーツよりもいいことから、出稼者は年を追って増えてきていた。ヂラサック・スコンタチャート労働省次官によると、出国したカンボジア人労働者の60%から70%は東部地方で建設業か農水産業部門の労働に従事していた人たち。

 カンボジア側の発表によると、先々週の一三日にはサケーオ県アランヤプラテートとポイペト間の国境通過ポイントから出国したカンボジア人は4万人に達し、この週だけで合計12万人以上が出国したとされる。そのほとんどは不法滞在労働していた者で、正規の手続を踏まずに就労していた者のほか、国籍証明を得て正規に就労していたが、4年間の就労期間を終えた後も、そのまま就労を続けていた者たち。

 タイはカンボジア、ミャンマー、ラオスと労働者受け入れで国家間合意を交わしており、国籍証明を得た労働者に関しては4年間の就労を許可、その期間を終えた者はいったん帰国し、3年間が経過すれば再び入国、就労することを認めている。しかし国籍証明で関係国の協力を得られているとは言いがたく、また費用もかかることから手続をせずに就労する者が多数に上っている。労働省雇用局のタニット・ヌムノーイ副局長が六月一六日に明らかにしたところによると、正規に就労している外国人単純労働者は223万3015人で、国籍別ではミャンマーが174万1771人、カンボジアが39万5356人、ラオスが9万5888人。223万人のうち約180万人は元々不法就労者で、後に国籍証明を得た者。国籍証明のない不法就労者の数については実態がわかっておらず、合法就労者とほぼ同数とする推定もある。

 タイ工業連盟(FTI)はカンボジア人労働者の出国に対して、人手不足問題のさらなる悪化につながるとして懸念を示す一方、人身売買や強制労働などの問題解決が必要なことも指摘している。欧米などがこの問題を理由に食品などタイ製品の輸入規制に走ることを警戒している。なお米国務省は二〇日、人身売買に関する年次報告書でタイを要監視国から制裁対象国にさらに引き下げた。今後、改善がない場合、制裁措置がとられることになる。

 東部のラヨン県では、農業、漁業、サービス業に影響が出ている。同県を代表する観光地サメット島ではカンボジア人労働者のほぼ全員約500人が消失。また県内のゴム農園の労働者、果樹園の採取作業にも支障が出ているという。

 カンボジア人労働者の大量出国を受け、NCPOは一六日、一七日に相次いで外国人労働者の問題についての指針を命令の形で発表している。その内容は以下の通り。

 命令第67号/外国人労働者に対する一時的対策。①違法外国人労働者は弾圧しない。②外国人労働者管理策として、事業者、使用者に雇用している外国人労働者のリストを作成させる(違法行為の防止、人権保護、外国に説明する目的から)。③法規改正は検討段階にある。④デマ情報を流す者を当局に通報するように。⑤外国人労働者を雇用する事業者、使用者は被雇用者によく説明し、問題解決に協力するように。⑤武器を使って外国人労働者を殺害、虐待した事実はない。外国人労働者の母国の理解が得られるようにするため、外国メディア、各国際機関の理解を求める。

 命令第68号/人身売買防止取締、第1期外国人労働者問題解決に係る一時的な緊急対策。①外国人労働者を使用する事業者、使用者、特に漁業及び関連事業の事業者、使用者は強制労働がないよう法律に従った行動を取る②第1期対策では厳しい措置を猶予し、人権保護の原則に従い外国人を保護する。③関係機関は、人身売買、外国人労働者の不法入国への関与者を防止、取り締まるために法律の適用を急ぐ。④国の職員で人身売買、児童・女性労働、外国人労働者の不法入国に関係する者は直ちに訴追する。⑤友好国(近隣国)、国際社会と協力する。労働者の権利、人権の世界基準に従う。

 NCPOの報道官は、外国人労働者の不法就労に関与している就労斡旋業者、公務員の摘発とともに、過去一〇年で拡大した外国人労働者問題の抜本的な解決を進めていくと発表している。NCPOは一九日になって、プラウィット・キアンポン雇用局長、デーチャー・プルックパタナラック外国人労働者管理事務所長を更迭している。不法労働者の取締、斡旋などで不当な利益を得ていた疑いからで、外国人労働者管理事務所は外国人労働者の派遣ビジネスに関与するなど不正にも手を染めていたもよう。


日付 : 2014年06月23日

By : 週刊タイ経済

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