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暫定憲法が7月22日に施行になる 来年七月頃までに恒久憲法を制定へ

 国家平和秩序維持団(NCPO)による暫定憲法が七月二二日付けで官報公示され、施行となった。暫定憲法は全48条から構成され、国家立法議会、内閣、国家改革会議、憲法起草委員会の設置を規定するとともに、NCPOの存続と権限、内閣との関係についても規定した。五月二二日のクーデタで政権を掌握したNCPOは、民政移管に向けて3フェーズからなるロードマップを公表しており、政変から丸2か月を経て第2フェーズに入ったことになる。(12~13面に暫定憲法の条項全文の和訳を掲載)

 七月二二日より施行になった暫定憲法は、一九三二年の立憲革命から数えて19番目の憲法。暫定憲法とされるのは、恒久憲法が制定されるまでの期間にのみ適用されるためで、施行期間は1年前後と見積もられている。恒久憲法が制定され、付属法や関連法が制定されれば、ロードマップの第3フェーズに入り、総選挙を経て新政権が発足することになる。軍政は政変直後に発表したロードマップで、まず国家統治権を掌握し、出来るだけ速やかに和解を進めることを強調。これに2、3か月を見込んでいた。軍政が第2フェーズとするのは暫定憲法下での統治の時期で、約1年間続く見通し。

 NCPOの法務・司法担当責任者のパイブーン・クムチャーヤー陸軍司令官補は二三日、NCPO顧問のポンペット・ウィチットチョラチャイ教授、ウィサヌ・クルアガーム教授と共に記者会見に臨み、暫定憲法について説明した。その模様は生放送でTV中継されている。

 ウィサヌ氏は、暫定憲法が大きく5つの機関について規定していると説明している。第1に国家立法議会の設置で、定員は220人。議員は知識、能力を持つ各界からの代表とし、NCPOが多様性を考慮して選出する。過去の暫定憲法とは異なり、議員の資格や禁止態様について細かく規定している。特に第8条において禁止態様について規定し、過去3年以内に政党の何らかの地位にある、または地位にあった者は議員になれないとした。ウィサヌ氏によれば、政党の地位とは、党首、副党首、幹事長や執行部メンバーなどを意味し、一般党員はこれに含まない。国家立法議会は、①法律の制定、緊急勅令や条約または外国との間で交わした重要文書の承認、②首相の指名・罷免、③行政チェック、④検察庁長官、内閣法制委員会事務局長、資金洗浄防止取締委員会事務局長や独立機関の長などの選出という4つの権限義務を持つ。行政検査に関しては、内閣に一般討論を求める動議を提出することができるが、信任、不信任決議をすることはできない。

 内閣は首相1人と35人以下の国務大臣で構成する。首相は国家立法議会が選ぶが、立法議会議員であってもなくても構わない。また国務大臣は現役官僚や国営企業の経営陣でも構わない。これは、この内閣の任期が1年前後でしかなく、有能な人材を登用する必要があるためで、過去の暫定憲法の規定を踏襲している。内閣は行政権の行使のほかに、国家改革の実施と国民の団結・和解に取り組むという2つの権限を有し、うち後者は権限であるとともに義務であるとウィサヌ氏は説明している。

 議会、内閣に次いで3つ目の機関として、国家改革会議が設置される。議員定数は250人で、各県代表77人と11分野(①政治②国家統治③法律と司法手続き④地方行政⑤教育⑥経済⑦エネルギー⑧保健と環境⑨マスコミ⑩社会⑪その他)の173人で構成する。各県代表は、候補者選定委員会が各県に設置され、5人の候補を提出し、NCPOが1人を選ぶ。11分野からは各分野50人、合計550人の候補者を選出し、NCPOがその中から173人を選ぶ。国家改革会議は各分野の改革案をとりまとめる。改革案の実施にあたって法律の制定が必要なものは、国家立法議会に法律の制定を求める。国家改革会議のもう一つの権限は、憲法起草委員会が起草した憲法の承認。

 憲法起草委員会は36人で構成される。国家改革会議が選出する20人、国家立法議会が選出する5人、内閣が選出する5人とNCPOが選出する5人の委員のほか、NCPOが委員長1人を選出する。ポンペット氏の説明によると、国家改革会議が選出する委員だけで過半数を占めるよう規定したのは、改革会議の提案が憲法に盛り込まれることを保証することが狙い。

 国家改革会議の議員は、政党の役職にある者の就任を禁止していない。議員の年齢も国家立法議会議員のそれよりも5年若い35歳以上としており、国家公務員、国営企業職員、地方自治体職員であっても構わず、学歴も問わないものとなっている。これは国家改革が国家的課題であるため、できるだけ制限を少なくする必要があると判断したことによる。これに対し、憲法起草委員会の委員は、特別な専門知識や能力が求められるほか、憲法起草の期間も120日間と定められているため、時間との競争も余儀なくされる。このため憲法起草委員は、NCPO、国家立法議会、または国家改革会議のメンバー以外の政治的地位にあった者や、過去3年間に政党の党員または役職者であった者、裁判官、判事や独立機関の委員などは就任できないとした。さらに利害関係を排除するため、憲法起草委員は退任した日から2年間、政治的地位に就くことはできないと規定されている。

 憲法起草委員会が起草した憲法案は国家改革会議で審議される。国家改革会議は修正要求することができる。憲法起草委員会は完全なフリーハンドで憲法を起草できるわけではなく、国家改革会議と暫定憲法第35条の規定で「宿題が課されている」(ウィサヌ氏)。第35条には①汚職防止メカニズム、②国権行使の監督と制御の仕組み、③汚職したことのある者、不正選挙に関わった者が政治的地位に就かないよう防止する仕組み、④公務員や政治家が特定の者またはグループに不法に支配されずに、独立して任務を果たすことができるようにするための仕組み、⑤法原則の堅固化振興、⑥全セクター・全段階での倫理・グッドガバナンス振興の仕組み、⑦持続的・公正な経済・社会制度への構造改革と推進、⑧国家経済と国民に長期的な損害を及ぼす政治的人気取りを目指す国家統治(ポピュリズム政治)の防止の仕組み、⑨国家財政を脅かす資金支出の検査と公開におけるメカニズム、⑩憲法が意図した重要原則の破壊を防ぐ仕組み、⑪諸分野における十分な改革を促すメカニズムなどを憲法に盛り込まなければならないという規定が置かれている。

 NCPOについては存続を規定している。団長はNCPO内の地位就任者を変更または追加することができる。ただし追加の場合、合計して15人を超えてはならないとした。暫定憲法は第44条でNCPO団長の絶対的な権限も規定している。これについては、独裁政治だったサリット元帥時代の暫定憲法第17条を想起する者も少なくないが、ポンペット氏はそうした意図で設けた条項ではないとしている。またウィサヌ氏も、この種の条項は暫定憲法にはつきものだが、実際にこの条項を常に使ってきたわけではないことを指摘している。

 暫定憲法は過去の暫定憲法に比べると、条文数が多いものの、恒久憲法に比べると短い。不十分な部分が残ることから、第5条において、「本憲法に適用すべき規定がない時においては、国王を元首とする民主主義制度のタイ国統治慣習に従って行動、または判断する」とした〇七年憲法の第7条に類似した条文が設けられている。この条文は、統治慣習の定義をめぐって、かねてより論争があるものだが、ウィサヌ氏は、暫定憲法が完全無欠ではない以上、この条文を外すことはできないとしている。ただし、ある種の行動がタイ国の統治習慣に従うものかどうかについては、事前に憲法裁判所に判断を求めることが可能だと説明している。

 なお、この憲法には司法裁判所や独立機関についての規定はないが、これまで通りに存続し、恒久憲法で改めて規定がなされるまで、従来通りの権限義務を遂行していく。ウィサヌ氏は、この暫定憲法下で制定作業を進める恒久憲法の承認プロセスに国民投票の規定がないことについて、必要であれば実施することも可能だとの見解を述べている。過去の暫定憲法にはなかった改正増補について第46条で規定していることが根拠。同条は、必要かつ相当と判断した場合、内閣と国家平和秩序維持団は本憲法の改定増補を共に決定し、国家立法議会に提出することができるとしている。

 ウィサヌ氏は、恒久憲法が公布されれば暫定憲法は失効することを説明している。また暫定憲法で設置された機関などの活動期間については、国家立法議会は総選挙を経て新たな議会が発足した時点で役割を終え、内閣も新政権が発足した時点で役割を終えるとした。憲法起草委員会は憲法が制定された時点で解散になり、国家改革会議は新憲法がどう規定するかに左右されるとした。NCPOについても、新憲法がその存続を規定することはあり得ず、新憲法の公布とともに解散になると説明している。


日付 : 2014年07月28日

By : 週刊タイ経済

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