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タイ中銀の月例経済金融報告 7月の景気は輸出の収縮で横ばい

 タイ中央銀行が八月二九日に発表した月例経済金融報告によれば、七月の景気は全体として前月から横ばいとなっている。国内需要は民間消費と投資が改善したほか、政府支出も増加し、経済の推進力としての寄与度を増してきている。しかし輸出回復が遅れており、製造業も在庫調整中にあるため、工業生産は横ばいとなっている。一方で観光業は徐々に改善の兆しが見え始めている。政治対立が沈静化し、外国人観光客の懸念が和らぎ始めている。(3面に関連記事、18~19面に中銀データ)

 供給サイドを見ると、七月の農業所得は前月から横ばいとなったが、前年同月比では1・2%収縮した。価格下落によるもので収量は増えている。農業生産は前年同月比4・3%増。主に果物の生産が増えた。天然ゴムとパーム椰子の生産も栽培面積拡大にともない増えている。コメの生産は灌漑水量不足、籾米担保貸付政策の廃止などから減少した。米価は1級籾米で1トンあたり平均7870バーツとなり、前月から上昇した。ベトナムのコメ生産量が落ち込んだことで、タイ米の海外からの引き合いが増えたほか、政府保管米の放出抑制で価格が持ち直した。ただし前年同月比では米価は17・8%下落している。天然ゴムはシート状ゴムの平均価格は1㎏あたり58・57バーツとなり、前月の61・20バーツから下落した。また前年同月比では16・4%減となった。中国の在庫量が高水準にあることに加え、中国に次ぐ市場であるマレーシアからの引き合いも細った。

 七月の工業生産は前月比で横ばいだった。多くの業種で在庫調整が長引いており、需要が上向かないため、生産レベルを引き上げるに至っていない。工業生産指数は前年同月比では5・2%減となった。自動車生産が落ち込んでいることや大規模製油所のメンテナンスによる運転休止が響いている。輸出比率が30%以下の工業の生産は前年同月比で8・0%減少した。石油生産が大型製油所2か所の運転休止に加え、前年同期が休止後の増産期だったハイベース効果により19・7%減となった。合成樹脂の生産は国内需要の低迷のほか、製油所の休止による原料面の制約から落ち込んだ。またビールの生産は、サッカーW杯開催期の在庫投資で残った在庫の放出を急いでいることから生産が減少した。またカオパンサー(入安居)の時期が前年よりも早まったことも影響している。

 輸出比率が30~60%の工業の生産は前年同月比18・4%減。自動車の輸出向け生産は増えているが、国内市場向け生産が落ち込んでいる。輸出比率60%以上の工業の生産は前年同期比3・5%増となった。集積回路の生産が伸びた。カーエレクトロニクス製品やスマートフォン向けの需要が拡大している。このほかハード・ディスク・ドライブ(HDD)の生産も在庫調整一巡の結果、増加した。

 工業部門の設備稼働率は60・1%で、前年同期の64・5%から低下した。工業生産の収縮に一致したもの。季節調整済みの設備稼働率は59・4%で、前月の60・2%を小幅下回っている。

 七月の外国人観光客数は190万人で、前年同月比10・9%減となったが、季節調整済みの前月比では9・1%増となり、政情安定化を受け、回復を始めていることが分かる。ただし第3位の観光客市場であるロシアからの観光客は収縮幅が拡大している。七月時点で自国民のタイへの渡航に警告を発している国・地域は60か国・地域に上り、前月から変わっていない。エボラ出血熱の世界的な流行はまだタイの観光全体に対して影響を及ぼしていない。

 七月のホテル客室稼働率は49・2%で、前年同月の60・7%を大幅に下回った。観光客数の減少に一致したものとなっている。ホテル予約状況を見ると、外国人観光客数は今後も一定期間、前年同月を下回る見通し。ただし減少幅は徐々に縮小していく見通しとなっている。

 バンコク首都圏の不動産業は、民間企業の信頼感の改善に歩調を合わせて上向き続けている。供給面では新規分譲開始住宅戸数(3か月移動平均)は8446戸となり、前月の8304戸を上回った。電車沿線を中心にコンドミニアムの分譲が増えた。一方で低層住宅は小幅減少した。住宅需要は全体として前月から横ばいとなている。住宅予約率(3か月移動平均)は20・4%で前月からほぼ変わらず、住宅ローンの認可件数(季節調整済み3か月移動平均)は4792戸で、前月の5290戸から減少した。

 需要サイドでは、七月の民間消費は非耐久財を中心に上向いた。家計の信頼感改善に一致した動きで、調理用ガスや軽油の小売価格抑制で家計の購買力を支えている。七月の民間消費指数は一三年八月以降で初めてプラス成長に転じている。消費ベースの付加価値税収、燃料消費の指数が上向いている。一方で、耐久財は特に自動車で、ハイベース効果と金融機関の与信審査の厳格化から収縮を続けている。下半期に民間消費は、特に非耐久財分野で拡大傾向が続く見通し。耐久財消費は、家計債務が高水準にあることや農業所得が農産物価格下落の影響を受けていることで回復が遅れそう。ただし来年初めには、ローベース効果からプラス成長に戻すものと見られる。

 民間投資は七月に前月比で小幅改善した。とくに自治市外での建設投資が企業部門の信頼感改善に沿って伸びている。また一部の事業者は投資奨励認可を受け、投資を再開し始めている。ただし前年同期比で見ると民間投資は依然として収縮している。事業者の多くは、目先の景気動向や政府部門の政策が明確になるのを見守っている。設備投資は収縮傾向が続いている。自動車、エレクトロニクス、電機などの工業で使用する機械・機器の輸入が減少を続けている。建設投資も自治市内建設許可面積は引き続き減少している。今後に関しては、民間投資の改善傾向が予測される。投資委員会(BOI)による投資奨励認可が続いているほか、企業の財務は健全で、資金面での投資の足かせはない。また3か月先の業況判断指数も改善を続けている。

 対外セクターを見ると、物品輸出はまだ明確な回復の兆しを見せていない。アジア域内の需要が鈍化していることに加え、農産物価格の下落が響いている。またエレクトロニクス分野では生産技術面の問題も抱えているため、世界経済の回復の恩恵を受けられないでいる。七月の物品輸出は187億ドルで、前年同月比0・5%減となった。

 エレクトロニクス分野ではHDDと集積回路(IC)の輸出がそれぞれ3・6%減、5・5%減となった。電化製品の輸出は全体として横ばい。主力のエアコンは、ASEANの需要の鈍化から2か月連続で収縮したが、その他の家電品の輸出は伸びている。

 機械・機器の輸出は米欧の需要増から10・5%増となった。石油化学品は10・0%増。中国やASEANの需要が伸びている。また価格も上昇局面にある。自動車・同部品の輸出は9・3%増。ローベース効果によるところが大きく、前月比では横ばいとなっている。米国、欧州、中東向けは上向いているが、主力のオーストラリア、ASEAN向けが鈍化している。

 七月の物品輸入額は172億4900万ドルで、前年同月比3・4%減となった。経済活動が上向いてきたことで、輸入の減少幅は縮小に向かっている。金地金の輸入を除くと、輸入額は1・8%増となっている。

 七月の貿易収支は14億5000万ドルの黒字。サービス・所得・移転収支は23億1400万ドルの赤字となっている。外資系企業による利益・配当送金の季節にあたることが理由。加えて観光収入も減少している。経常収支は8億6400万ドルの赤字で、前月の18億3800万ドルの黒字から赤字に転じた。

 資本収支は46億2700万ドルのネットインフローとなった。証券投資での流入によるもので、特に債券市場に投資マネーが流入した。


日付 : 2014年09月01日

By : 週刊タイ経済

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