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プラユット内閣が施政方針発表 税制改革で新税の導入に言及

 プラユット・チャンオーチャー首相は九月一二日、国家立法議会で施政方針演説に臨んだ。プラユット内閣は、発足の特異性もあり、民選政府ができるまで、任期が1年あまりの暫定政権。通常の政府と同様に国政運営にあたるほか、暫定憲法で国家改革、和解団結の実現という責務も与えられている。首相は、国王陛下の充足経済(セータキット・ポーピヤン)哲学、第11次国家経済社会開発計画、国家平和秩序維持団(NCPO)の指針、国民のニーズに沿って、こうした任務に「タムコーン(まずやる)・タムチン(本当にやる)・タムタンティ(すぐやる)」をモットーに、取り組んでいくと表明した。(28面に関連記事)

 国家平和秩序維持団(NCPO)を率いるプラユット大将は、八月二四日に首相に任命され、八月三〇日に組閣を終えていた。施政方針演説では、この政府が通常の政府とは異なる条件の下に樹立されたことを指摘。NCPOが定めた3期から成る民政移管ロードマップを引き継ぐことになると説明した。

 一二日の施政方針演説では、11項目の戦略に従い国政に取り組むと表明した。最初に掲げたのは王政擁護で、国王はタイの民主主義制度における統治で伝統的に重要な構成要素になってきたことから、政府は王政擁護を重要な任務とするとした。2番目に国内、対外の治安維持に取り組む。3番目に社会格差是正と国のサービスへのアクセス機会創出を掲げた。具体的には、①新卒者、女性、機会に恵まれない者、合法的外国人労働者の機会、職業、安定所得、労働技能向上、②人身売買、外国人労働者の搾取、性サービス観光問題解決、③社会保護制度、貯蓄制度、福祉の開発、④高齢化社会への準備、⑤ASEAN共同体への準備、⑥道徳・倫理の振興、⑦保護森林侵入問題の解決に取り組むとした。4番目に教育・学習、宗教護持、芸術・文化、5番目に保健サービスの質向上と国民の健康、6番目に国の経済競争力の強化、7番目にASEAN共同体における役割振興と機会の利用、8番目に科学技術、研究開発、イノベーションの開発と利用振興、9番目に資源基盤の維持、保全と持続的利用のバランス、10番目にグッドガバナンスの振興と汚職・不正の防止・一掃、11番目に法律と司法プロセスの改正に取り組むとした。

 経済政策に関しては、今年五月まで半年以上にわたって続いた政治危機の結果、景気が大幅に失速していることから、財政支出などによって景気を下支えし、可能な限り速やかに4~5%増とされる潜在的成長率を戻すことが優先される。また同時進行で、タイ経済の潜在能力を押し上げる政策にも取り組む。政変後、軍政は二〇一四年度予算の執行加速に取り組んできたが、投資予算の執行は遅れている。今年末までに執行するようにし、合わせて二〇一五年度予算もNCPOの経済刺激予算方針に基づき執行を急ぐ。昨年一〇月以降、BOIのボードの不在で投資認可が遅れていた大規模投資案件について、審査を急ぐことで民間投資を刺激する。またバンコクでの大量輸送機関プロジェクトなど、投資収益率の高いインフラ・プロジェクトへの民間の投資参入を促すことで、建設業、不動産業や金融市場の投資マインドの改善を手助けする。農業分野では生産者が適正な所得を得られるようにする。生産コストの軽減、生産要素面の支援、零細農家支援などの方法で取り組むとしており、農産物価格の下落問題に対して前政権の籾米担保貸付のような市場介入策は採らないとしている。

 世界経済が回復基調にある中で、タイの物品輸出は下半期を迎えてもマイナス成長が続いている。輸出に関しては、工業製品・農産物の標準検査方法の改善、文書・手続業務の削減など、商品の出荷に関わる障害を低減するとした。合わせて輸出ベース拡大のための市場の開拓や国境貿易の振興に取り組む。政治混乱で外国人観光客数が減少するなど経営環境が悪化している観光業については、一部の観光地で戒厳令による影響の軽減措置を検討するとした。

 経済の回復を支援するため、金融政策と財政政策の整合性を高め、合わせて物価の安定に取り組むとし、金融当局と財政当局の協調に務める考えを示した。治水対策では、雨季の洪水、乾季の水不足問題に取り組むとし、二〇一一年のような大洪水の予防方法をさぐるため叡智を集め、特定地域の洪水問題も速やかに低減させる方法を探るとした。乾季の農業用水不足については小規模の水源を全国で開発する。

 政府は燃料価格構造の調整にも取り組む。エネルギー使用の効率改善と消費者の浪費防止のため、実際のコストに整合し、各種の燃油と需要家の双方の間に適切な税負担を定めるとした。合わせて海洋と内陸の双方での天然ガス・原油の新たな資源探査を実施し、化石燃料と代替エネルギーによる官民の発電所の増設にあたって透明で、公正、環境にやさしい手法で取り組むとした。

 税制改革では、徴税ベースの拡充に努めることを約束した。個人所得税と法人所得税は、前政権の減税措置を恒久減税の形で継続する一方、資産から徴収する新税を導入するとした。施政方針では具体的に、相続税と固定資産税の導入に言及している。新税に関しては低所得者の影響を可能な限り少なくするとした。また低所得者が恩恵を受けるよう所得税控除の改定に取り組み、経済的にゆとりのある者だけが恩恵を受ける減免措置は廃止する。前政権が作った債務が向こう5年間の財政負担となり、その分だけ国の開発のための投資に回せる予算が減るため、これを長期の借入によって再構成し、返済期限も長期にすることで将来の財政負担を少なくするとした。

 長期的な取り組みでは運輸インフラの開発を進める。バンコクでの電車プロジェクト、バンコクと近郊を結ぶ電車網の拡充で国民の移動時間を短縮し、民生の向上につなげる。開発には時間がかかるため、次期民選政府が直ちに実施できるよう土台を整備することになる。空運ではドンムアン空港の第2期改修、地方国際空港の拡張に努める。スワナプーム空港を補完する空港としてドンムアン空港のほかウタパオ空港を活用することも示した。水運ではロジスティック・コスト低減のため、内航貨物輸送の開発に取り組むとした。運輸行政は政策立案、監督、実行を明確に分離した組織構造に改める方針。また軌道システムの監督機関を新たに設置し、サービス、安全、料金体系などの標準を定める。このほか国営企業改革も進める。効率的で、透明で、検査可能なものへと国営企業の運営体系を改める。経営難にある国営企業は問題解決と再建の明確な目標と措置を定める。

 農業分野の長期の政策では各作物ごとのゾーニング、農協の役割を高めるなどの方法を通じて生産構造を需要に即したものへと調整する。工業分野の長期の政策では、アグロインダストリー、ハイテク工業、設計・創造的工業などの開発を振興する。このほか中小企業の競争力の底上げ、デジタル経済の振興も経済政策課題に掲げた。

 プラユット内閣の施政方針で、タイの報道機関が最も注目しているのは、税制改革での相続税、固定資産税制定を約束したこと。首相は両税について、年内の成立を目指す考えを表明した。相続税法、固定資産税法(土地・建造物税法)は、すでに財務省が法案を起草し、内閣法制委員会事務局の審議も終えており、閣議決定すればすぐに議会に提出可能な段階にある。首相はまた、具体的に明言はしなかったものの、長期株式運用ファンド、退職年金型ファンドの税制優遇の廃止も示唆している。

 タイの経済は政治不安のため、今年上半期にマイナス成長を余儀なくされている。経済界はプラユット政権にインフラ投資を含む政府支出の加速を期待している。また民間企業の活動や民間消費の障害となっている規制の緩和も求めている。経済3団体合同常任委員会は現在、216の措置について検討しているところ。厳選した上で、官民合同委員会で提案することにしている。タイ銀行協会のブンタック・ワンジャルーン会長は、経済を刺激するのに現状で最も良い方法は、政府支出を加速させることで、合わせて経済成長の主要なエンジンである民間消費を刺激するような政策を考え出す必要があるとしている。ブンタック氏はまた、政府が不正汚職を根絶し、通関手続きを簡素化し、自由市場主義を手助けする環境の整備を求めた。タイ工業連盟(FTI)のスパン・モンコンスティ会長は、国の競争力強化と公的部門の効率を良くするために、経済刺激における民間の関与を増やし、政府手続きの迅速化のため科学技術を採用するよう求めている。またロジスティック・コスト低減のため、インフラ投資も速やかに実施するよう求めた。スパン会長は、欧州などとのFTA交渉プロセスをできるだけ早く再開するよう提言している。タイ商業会議所のポーンシン・パチャリンタナクン副会長は、内閣が至急に実施すべき仕事として、年度予算の消化、インフラ投資、農業生産コスト低減、農民支援のための持続可能な措置の導入を挙げている。


日付 : 2014年09月15日

By : 週刊タイ経済

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