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タイ中銀の金融政策リポート最新号 14年の経済成長率予測は1・5%増

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は、九月二四日に公表した最新の『金融政策報告』で、今年の経済成長率を1・5%増と予測し、3か月前の予測値から据え置いた。一方で二〇一五年の成長率は4・8%増と予測し、前回見積もりから下方修正した。国内需要は従来の見積もりをやや上回るペースで回復しているが、輸出の回復が予想よりも遅れているため、一四年の成長率は従来予測に等しいものになるとした。また輸出向け生産セクターの抱える制約と観光セクターの回復の遅れは、二〇一五年の経済成長にも影響を及ぼすと見ている。

 MPCの書記を務めるメーティ・スパーポン中銀総裁補は、世界経済の成長は従来予測をやや下回っているとしている。特に欧州経済と日本経済の成長率が低下している。一方、インフレ率は原油相場が安定していることでコストプッシュの圧力が低下しているため、従来予測を下回る見通し。MPCは九月一五日に開いた会合で、政策金利を4会合連続で据え置いている。政策金利は年2・00%の低いレベルになっており、回復を始めたばかりのタイ経済の回復を支えるため緩和政策(低金利)は続ける必要があるとしている。

 MPCは足元の景気について、第2四半期は予想以上に改善したものの、まだ経済主体の広範な改善をともなうものではないと見ている。国内支出は非耐久財の消費支出、建設投資、さらには政府支出の拡大から改善している。しかし物品・サービス輸出からの経済推進力は予測を下回るものとなっている。

 家計の消費支出は第2四半期以降、上向く傾向にあり、特に非耐久財の消費が伸びており、今後の消費の伸びを支援しそう。消費者の信頼感が改善を続けていること、非農林水産業の雇用と所得が上向く傾向にあること、国民の購買力を高める政府部門の措置が背景にあり、さらに耐久財の買い控えも徐々に薄れていくと期待されている。民間消費は一四年に1・1%増と予測し、六月時点の0・2%増から上方修正した。

 タイ中央銀行のデータによると、家計の借金の残高は第1四半期末に9兆8700億バーツ、対GDP比で82・7%となっており、昨年末時点の9兆7900億バーツ、82・3%から上昇した。二〇一一~一二年時点の家計の貯蓄はGDPの5%の低い水準にとどまっている。

 政府部門による景気刺激の効果は、二〇一四年と二〇一五年の双方で従来の予測を上回りそう。二〇一四年に政府部門の支出は、政府プロジェクトの透明性確保のための精査が理由で、従来の予測をやや下回る見通しとなっている。しかし第2四半期ならびに年下半期の価格が予想よりも低下する効果から、実際の刺激力はむしろ従来予測を上回る。一方で二〇一五年は政府の予算執行加速措置と投資プロジェクトの明瞭化、前年からの繰り延べ予算の執行により、政府支出は増加する。治水プロジェクトは、認可済みの緊急実施プロジェクトの投資は継続される見通し。政府支出は一四年に4・1%増が見込まれている。これは六月時点の2・8%増を大幅に上回る。

 民間投資は従来予測に沿って緩やかな回復に向かう。企業の信頼感は改善に向かっており、消費の回復や政府投資の明瞭化にともない投資を増やし始めている。投資委員会(BOI)による積み残しの投資プロジェクトの認可も今後の投資の伸びに勢いを持たせることになる。ただし物品輸出が予想以上に脆弱なため、輸出セクターの投資は一部で減速しそう。一四年の民間投資は2・8%減となる見通しで、3か月前の2・6%減から下方修正した。

 物品輸出の回復が予想以上に遅れているのは、欧州や日本などの貿易相手国経済の低迷、エレクトロニクス分野での長期に及ぶ新規投資の不足を主因とした生産技術面の制約、自動車輸出の伸び悩み、コメやゴムなどの農産物価格の下落が理由。タイの自動車輸出は価格の安い小型車の比率が高まっているほか、輸出先だったインドネシアの生産力が高まり、輸出市場で競合を始めており、以前のような高い伸びが期待しづらくなっている。物品・サービス輸出は一四年に0・4%減と、六月時点の2・5%増から下方修正した。また物品・サービス輸入も六月時点の1・4%減から4・7%減に下方修正した。

 世界経済を見ると、欧州経済はファンダメンタルズの弱さのため予想以上に減速している。日本経済は消費税引き上げの影響が予想以上に大きくなっている。米国経済は顕著に回復しており、ほぼ予測通りの動きとなっている。中国経済は当局の目標に沿った成長トレンドにあり、中国政府は経済構造のバランスを重視している。アジア経済は横ばい傾向。国内需要の減速を輸出が穴埋めしている。

 観光業は予想以上に回復が遅れている。多くの国が依然として自国民のタイへの渡航に警告を発しているため。欧州経済の減速で欧州からの観光客の回復も遅れている。ロシアからの観光客は同国経済に影響を及ぼす東ウクライナ紛争により減少傾向になっている。

 プラサーン・トライラットウォラクン総裁はこれより前、最近の貸出しの伸びに見られるように内需は改善していると述べていた。消費支出は回復しているが、投資は一般的に回復までに長い時間が必要だと指摘している。また民間企業部門が、生産を増やすための投資を始める時期は間もなくやって来るとしており、この種の投資活動は年末にかけて増え続けるとした。プラサーン総裁は二二日時点で、内需は従来の予測以上に改善すると期待されるが、輸出と観光業の成長は従来予測を下回ると述べている。政府支出は従来予測をわずかに上回り、民間支出も改善するとした。

 プラサーン総裁は、プラユット政府によるエネルギー価格調整について、物価への影響は限られるとの見方を示している。エネルギー価格の上昇はロジスティックと製品価格に影響するため、中銀が物価にどのような影響を及ぼすか監視し、シナリオを用意しているが、物価は制御できると考えていると述べている。また、エネルギー価格は世界的に見て高水準にあるわけではなく、供給に余裕がある一方で、需要が相対的に安定していることからもグローバルなインフレ圧力となるものではないと指摘。タイのエネルギー改革計画、金融政策の決定において障害にはならないとしている。

 プラユット政府は九月三〇日に開く定例閣議で経済刺激策を打ち出す予定。二六日にはプリディヤトーン・テワクン副首相が経済閣僚を呼んで協議している。最終四半期の政府支出を加速させるため、各省のプロジェクトの進捗状況を確認した。


日付 : 2014年09月29日

By : 週刊タイ経済

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