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プラユット政府が景気浮揚策 稲作農家援助ほか総額3645億B

 プラユット政府は一〇月一日に開いた閣議で、総額400億バーツを340万人の稲作農家に支給することを含む総額3644億7000万バーツの景気刺激策を承認した。今年最終四半期(一〇~一二月)の景気を浮揚させることが狙い。プリディヤトーン・テワクン副首相によれば、400億バーツを生産コスト負担軽減名目で農家に支給する。農家に直接支払うため景気を押し上げる即効性があるとしている。

 計画では400億バーツの現金は一〇月二〇日までに支給される。15ライ以上の農地を持つ農家160万世帯には一律1万5000バーツ、15ライ未満の農地しか持たない農家180万世帯には1ライにつき1000バーツを農家が持つ農業・農協銀行(BAAC)の口座に振り込む。プリディヤトーン副首相は、この措置はポピュリズム政策のばら撒きとは一線を画すもので、農家のコスト負担を軽減し、経済を刺激するのに役立つとしている。同副首相は、人気取りが目的ではなく、本当に助けを必要とする人々を助けたいだけだとコメントしている。米価は現在1トンあたり8000バーツ前後に低迷しており、一一月には年度米の新米の出荷が始まることで一段と弱含む可能性が高い。

 プラユット首相は、稲作農家以外にも経済的に困窮する多くの職業集団が存在することは理解しているが、問題を一つずつ解決していく必要があると述べている。首相は、財務省や中銀の経済指標から足元の景気が足踏みし、世界経済の回復の遅れもあって、過去数か月間のタイの景気は見込みをやや下回っていることを認めている。

 この日発表した他の経済刺激策は投資予算執行の加速で、二〇一五年度の投資予算のうち1295億2000万バーツを二〇一四年中に執行する。さらに二〇一四年度予算の繰越金1470億5000万バーツを今年一二月までに執行する。タイ強化戦略プログラム予算の残金230億バーツも灌漑プロジェクト、教育、公衆衛生分野などに使う。このほか政府は二〇〇五年度予算以降の繰越金248億9000万バーツの執行も急ぐことにしている。これら投資予算の執行加速は、新規の投資プロジェクトではなく、主に既存施設の補修工事に当てる。二〇一一年の大洪水で損傷した道路や、全国8000か所の学校の校舎の修復や新設、全国1000か所の病院・診療所の修復、運河や水路の浚渫を進める。こうした公共工事は全国で雇用を生み出し、特に地方の消費者の購買力の引き上げに効果を発揮すると見ている。プラユット首相は刺激策の焦点は施設補修にあり、それが雇用と所得を生み、資金循環を良くすることで景気の浮揚につながると述べている。プリディヤトーン副首相も、これらの措置が今年残り期間から来年にかけての経済成長の推進力になるはずだと述べている。

 タイ商業会議所のイサラ・ウォンクソンキット会頭は、雇用創出、低所得者の所得増につながるとして政府の措置を評価している。カシコン・リサーチ・センター社(KRC)のチャーン・ケンチョン社長も、今年第4四半期の経済を駆動するのに最も良いオプションだと評価している。タイ工業連盟(FTI)のジェーン・ナムチャイシリ副会長は、経済刺激策を歓迎する一方、予算執行の加速が汚職の横行につながる恐れを懸念している。

 タイ開発研究所(TDRI)のニポン・プアポンサコン研究員は、予算執行を本当に加速させることができれば、設備投資よりも建設投資を中心としていることから、景気浮揚の目的が達成される可能性は高いとしている。雇用、所得増は直ちに消費につながるため、経済への乗数効果もすぐに現われると説明している。また稲作農家に現金を給付する政策は、米価が下落している現状では有害とは言えないが、この措置が米価を引き上げるものではなく、また今年1回限りのものであることを知らせる必要があると指摘している。

 ある経済学者は、稲作農家に現金を支給する政府の経済刺激策に対し、将来により一層の問題をもたらすだけの愚策だと批評している。稲作農家を長期的に助けるものではない上、他の作物の農家に不公平だとしている。政府はポピュリズムではないとしているが、ばら撒き以外の何ものでもないとしている。コメ同様に価格の暴落で苦しむゴム農家は、すべての農家を平等に扱うべきだと抗議の声を上げている。

 前政権与党のプアタイ党の経済チームの一員であるピチャイ・ナリプッタパン元エネルギー相は、1ライあたり1000バーツの現金では不十分だと指摘。稲作農家の生産コストは現在の米価を大きく上回っており、国は1トンあたり少なくとも1万バーツの価格で籾米を買い上げるか、価格を保証することで農家を助けるべきだとしている。タイ農民協会のウィチアン・プアンラムヂアック会長も、1000バーツの援助は十分ではないとしている。民主党の副党首であるコーン・チャーティカワニット元財務相は、政府の現金給付政策を支持する一方で、今回の支援策から漏れる約80万人の小作農を支援する方法も見つける必要があるとしている。

 ソムマイ・パーシー財務大臣は、経済刺激パッケージにより、国の経済が押し上げられると信じていると述べている。突発的な事態でタイの輸出が影響を受けるようなことがない限り、今年通年の経済成長率は2%増以上になるとしている。財務大臣は、財務省が観光旅行を促進するための税制措置を検討していることも明らかにしている。観光収入増は経済を支えるのに役立つと見ている。稲作農家援助措置でのばら撒き批判については、多くの農家が籾米担保政策の廃止と米価の急落で苦しんでおり、何らかの援助が必要だとした。また財政政策のための余地がないヨーロッパの国とは異なり、タイの財政ポジションは堅固で、財政による経済の刺激が可能だとしている。

 公務員給与の引き上げについては、ドアを閉じているわけではないが、今は適切な時期ではないとして否定した。また公務員の昇給が経済全体に多くの刺激を与えるわけではないため、低所得の農家に焦点を合わせたとしている。相続税に関しては、遅くとも一一月初めには法令案を内閣に提出できるとしている。

 プラサーン・トライラットウォラクン・タイ中央銀行総裁は二日に都内で開かれたサイアム商業銀行主催のセミナーで講演し、政府の経済刺激策は今年の経済成長の下振れリスクを払拭することができる程度にとどまるとして、その効果を過大評価することを戒めている。中銀は今年九月末に期末を迎えた二〇一四年度予算の執行率が、通常を下回る91・7%にとどまったと見積もっており、政府支出が思うようには加速していないことを警戒していた。政府が予算の執行率を高めようと努力していることは、経済の下振れリスクの低減には役立つとしている。総裁は、この措置が経済を浮揚させようとする政府の意図をアナウンスするもので、これが民間企業の信頼感につながることを期待していると述べている。これをきっかけに民間企業が消費や投資を増やせば経済活動は活発になるとした。


日付 : 2014年10月06日

By : 週刊タイ経済

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