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鉄道新線プロジェクト 中国政府の金融支援で基本合意

 タイ政府は鉄道新線プロジェクトで中国と提携する。プラユット首相は一一月九日、北京で開催されたAPEC首脳会議の合間を縫って中国の習近平国家主席と会い、運輸インフラ開発の目玉プロジェクトである鉄道新線プロジェクトでの協力について話し合った上で、一一日にプラユット首相と李克強首相との会合で協力枠組みに合意した。プラユット政府は、ラオスのビエンチャンと国境を接するノンカイからマプタプットまでの鉄道プロジェクトを計画しており、中国政府が金融支援を行なう。

 プラユット首相は一四日の金曜談話で、タイ・中国間の鉄道プロジェクトでの共同投資は原則合意の段階であり、まだいかなる協定にも署名していないことを強調した。プラユット首相は鉄道新線が東北地方とラヨンの工業団地の間の交通の便を良くし、タイとASEAN、中国間の連結性の強化につながると述べ、中国がこのプロジェクトに強い関心を示していることを明らかにしている。首相はタイが地理的にASEANの中心に位置することを指摘。インフラが整備できなければ、経済的機会を失うことになるとして、このプロジェクトの重要性を訴えている。開発の最初の段階では中程度の速度での運行になるが、最終的には高速列車を導入する設計となっていることも示している。

 タイ中首脳会談では、インドシナ半島を南北に縦断する経済回廊R3Aハイウェー・プロジェクトや、鉄道プロジェクトについて協議した。プラユット首相は、タイがタイ、ミャンマー、ラオスと中国を結ぶ道路輸送ネットワーク開発で、中国とより一層の協力をする用意ができていると述べた。特に中国の雲南省からラオスのフアイサイでメコン川を越え、タイ北部チェンライ県チェンコンからバンコクに至るR3A号線は世界でも突出した経済回廊の一つになるとした。

 ヨンユット・マイラープ政府報道官は、九日のタイ中首脳会談後の会見で、輸送網の接続性を高めるため、1・435メートルの標準軌による複線の鉄道建設で合意し、中国は建設への支援を表明したと述べている。また中国がタイの果物、コメ、ゴムなどの農産物を継続的に輸入すると表明したことに対し、首相が謝意を示したことも紹介している。両国首脳は、農産物の二国間貿易における問題や障害の緩和のため、協議を継続していくことでも合意した。チャッチャイ・サリガンヤー商業相が一四日に明らかにしたところによれば、タイと中国は一二月にもコメ200万トンとゴム20万トンの売買で政府間取引に署名予定。二〇一五年から一六年にかけて出荷する。

 ヨンユット政府報道官によれば、中国側は中国人民元をアジア共通通貨とすべく、元建て取引を支援する用意があることを伝えている。また人民元とバーツの通貨スワップ協定の延長についても協議した。このほか教育、科学技術分野での協力の強化でも一致した。中国側はタイの職業教育開発への支援を表明した。首相はまた、一二月一九、二〇日にタイで開かれる拡大メコン・サブリージョン首脳会議への中国首脳の出席も要請した。

 鉄道新線についてプラユット首相は、直ちに建設にとりかからないと、将来的に輸送面での障害が生じることになると指摘。また遅れれば遅れるほどプロジェクトのコストも増えるとして、できるだけ早期に建設にとりかかる意向を示している。鉄道開発での中国との提携は、民間の関与しない透明な政府間取引だと説明。政府代表団が協議し、取引がタイに不利益をもたらさないことを約束するとしている。首相はタイのインフラ開発に汚職・不正が蔓延していることを認める一方、中国政府との鉄道新線プロジェクトでは汚職がないことを約束するとしている。首相は、政府はすべてを透明にし、すべての関連法律に従うと述べている。

 プラチン・チャントーン運輸相はノンカイ~マプタプット区間の鉄道新線プロジェクトについて、一一月一八日にもタイ・中国間の合意文書が閣議承認される見通しにあることを明らかにしている。国家立法議会に送付し、議会の追認を受ければ、覚書に署名の運びとなる。署名は一二月中を予定しており、来年初めにも設計に向けた研究を開始できるようにする。運輸相によれば、ノンカイ~マプタプット区間はノンカイ~ナコンラチャシマ~ゲンコイ、ゲンコイ~バンコク、ゲンコイ~チョンブリ~マプタプットの3つのセクションに分割される。

 鉄道新線プロジェクトは、戦略的ネットワークを築き、地域経済を押し上げるとした中国とタイの協力の柱の一つ。同プロジェクトは、中国が構想する現代の「シルクロード」プロジェクトにも寄与する。域内の包括的な陸上輸送ネットワークの構築において主要なステップになる。同プロジェクトの投資額は約4000億バーツと見積もられている。投資の形態、または中国とタイの投資分担額は今後の交渉で決める。中国がソフト・ローンを提供し、タイはゴムやコメを中国に供給することで返済するとした報道がなされているが、プラチン運輸相はこれを否定している。

 タイにおける高速鉄道計画は一九八〇年代終わりのチャートチャイ政権で、バンコク~ラヨン区間が構想されたのが嚆矢。九一年のクーデタ、九七年のバーツ危機を挟んで構想は立ち消えとなっていたが、約10年前にタクシン政権が復活させた。当時はバンコクを基点に、北部(チェンマイ)、東北部(ノンカイ)、東部(ラヨン)、南部(ハジャイ)を結ぶ4路線が計画されていた。なかでもタクシン首相(当時)の出身地であるチェンマイへの路線を優先する方針だったが、採算性の問題から進展しないまま〇六年のクーデタでタクシン氏は失脚した。アピシット民主党政権も〇九年に高速鉄道を計画、この時には中国の強い働きかけで中国の資金と技術を導入する話が進められたが、途中でこれも立ち消えになっている。この時は中国側が援助の見返りに沿線の開発権などを要求したことが理由という見方もあった。

 次のジンラック政権はタクシン政権の構想を引き継いで、高速鉄道計画を強く推進しようとしたが、昨年一一月からの政治混乱と政変でこれも頓挫していた。計画では、バンコクを基点にして4地方に向け高速列車が走行できる新線を開発、駅の周囲を再開発することで新市街地、産業振興を図るというものだった。

 今年五月のクーデタで政権を握った国家平和秩序維持団(NCPO)は、前政権の大規模インフラ事業計画をすべて廃止、高速鉄道計画も白紙に戻っていた。再び鉄道新線の話が持ち上がったのは七月頃で、国鉄在来線の複線化プロジェクトと合わせ、複線・標準軌の新線プロジェクトが運輸省の交通運輸インフラ整備計画に登場。ただし東北方面のルートはノンカイ~マプタプット区間に変更されていた。その後このルートは微調整され、バンコクを経由するとしたが、雲南省からラオスを経由して海港へのアクセスを重視する中国の意向が反映されたことは明らか。中国は先にインド洋へのルートを計画していたが、ミャンマー政府が方針転換したことで計画は棚上げになっていた。


日付 : 2014年11月17日

By : 週刊タイ経済

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