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プラユット首相の日本訪問 鉄道協力、ダウェー開発で成果

 プラユット首相は二月八日から一〇日まで日本を訪問し、九日には安倍晋三首相と首脳会談を行なった。安倍首相は、日本の優れた技術・ノウハウや豊富な経験を活用し、タイのインフラ整備全般において一層の貢献を果たす用意があることを表明、プラユット首相はこの提案を歓迎した。両国は、運輸当局による鉄道分野協力に関する意図表明覚書(MOI)に署名し、首脳会談でも、今後、両国が具体的な協力を推し進めていくことを確認した。またミャンマーのダウェー経済特別区開発プロジェクトでは、日本側から特別目的事業体(SPV)への出資提案があり、タイ側はこれを高く評価するとともに、日・タイ・ミャンマーの三者協議を通じてプロジェクトを推進する重要性を確認した。

 プラユット首相は、日本政府がタイ日両国の深い絆を反映してタイ訪日団に対して温かいもてなしをしてくれたことに謝意を表明。首脳会談では、長く緊密な友好関係に基づく両国間の戦略的パートナーシップを維持・発展させる決意を再確認した。またタイ国内情勢の安定の維持が、経済成長と持続的で包摂的な民主主義に向けた改革にとって重要であることを指摘、そのための努力について説明した。両首脳はタイにおける民主主義の重要性について一致し、ロードマップに従った早期の民政復帰に取り組むタイ側の約束を確認した。プラユット首相は今年終わり、または来年の初めには約束通りに下院総選挙を実施すると述べている。また日本の懸念を理解しているとし、その上で、国の安定の維持と11分野の改革推進のために「特別な手段」が必要だったとことを説明した。プラユット首相は、権力に長くとどまる意思がないことを強調し、総選挙後の政権に影響力を持つつもりがないことも示している。プラユット首相は安倍首相に対し、威厳令を維持する必要についても説明している。

 両首脳は、長年にわたる安全保障・防衛面での両国の活発な交流・協力を高く評価した。プラユット首相は、二月にタイで行なわれるタイ米合同軍事演習のコブラ・ゴールドに日本の自衛隊が参加することを歓迎した。その上で様々な分野における安全保障・防衛面での可能な協力を一層促進することで合意し、外務・防衛当局間(PM)/防衛当局間(MM)協議を三月に開くことを確認した。このほか人身取引に関する日タイ共同タスクフォースの下で、人身取引と闘い、複雑化しつつあるこの問題に対処していくことを確認した。人身取引に関する日タイ共同タスクフォースは今年一月にタイで第5回会合が開催されている。

 経済面では両国の相互補完性を再確認し、日タイ経済連携協定(JTEPA)の円滑な運用を含め、両国経済関係を深化させていくことの重要性で一致した。タイ側は人的資源開発だけでなく、科学、ハイテク、イノベーション、グリーン・エコノミー、再生可能エネルギーなどの新世代産業での協力も求めている。また東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に積極的に関与し、同交渉を二〇一五年末までに完了するとの目標達成に向けて、より一層協力していくことで合意した。日本側は、日本企業がタイにおいて安心して長期の投資ができるようビジネス環境の維持・向上を要請した。プラユット首相は九日に経団連の榊原定征会長とも会談している。首相は昨年のクーデタの理由説明にかなりの時間を費やし、早期の民政移管を繰り返し約束した。また日本企業のタイでの活動を保護するとし、日本企業による投資と技術支援を呼びかけた。プラユット首相は経団連との会合のほか、多くの日本の大企業トップとも個別に会談した。

 首脳会談で安倍首相は、タイのインフラ整備全般において一層貢献する用意があることを表明した。プラユット首相は、タイのインフラ整備計画全般における日本の関与は、ASEANの連結性の中心であるタイのプレゼンスの増強にも寄与すると応じ、拡大メコン・サブリージョンの経済発展の加速が期待できるとした。プラユット首相は、タイがカンボジア、ラオス、ミャンマー、マレーシアとの国境地帯の6か所に経済特別区(SEZ)を設ける計画を進めていることを説明し、経済成長を刺激し、外国からの直接投資の呼び水になることを期待していると述べた。国境地域の発展は、ASEANの統合を支援することにもつながり、それがタイの国家戦略であることを伝えた。プラユット首相は、関係諸国と連携を取りつつ、SEZの開発を進める旨を表明し、日本側がタイと開発方法について共同調査をすることを歓迎した。

 両国首脳はまた、日本・タイ・ミャンマーの三者協議を通じてダウェー経済特区プロジェクトを推進する重要性を確認した。日本は、ダウェー開発のための特別目的事業体であるダウェーSEZデベロップメントへの出資に向けて、必要な条件を整えるための手続きを開始すると表明。プラユット首相はこのプロジェクトに対する日本の建設的な関与を歓迎した。タイ側はダウェーSEZデベロップメントへの日本人専門家の派遣、幹線道路建設に向けた日本による事前事業化調査(プレF/S)の開始などでの日本のODAを歓迎した。両国首脳はダウェー・プロジェクトの成功に向けた協力のあり方を探るべく、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易振興会(JETRO)、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)などの関係機関と連携していくことで一致した。

 タイの鉄道新線プロジェクトでは、首脳会談に先立ち、両国運輸当局間で鉄道分野協力に関する意図表明覚書(MOI)の署名式が執り行なわれている。日本の太田昭宏国土交通相とタイのプラチン・チャントーン運輸相が署名したもので、今後、具体的な協力を進めていく。覚書は、タイの鉄道開発への日本の出資や共同開発には言及していないが、バンコク~チェンマイ間、メーソート~ムクダハン間の具体的な路線を挙げて鉄道整備に関する将来の協力可能性を追求していくとしている。また近隣国との鉄道連結性向上の観点からの南部経済回廊における鉄道整備(カンチャナブリ~バンコク~チャチェンサオ~アランヤプラテート/レムチャバン間)に関する調査研究でも協力する。覚書の実施を監督するための大臣級の共同運営委員会の設立にも言及している。

 両国首脳は、サイバーセキュリティーや防災を含む情報通信技術分野における協力活動の推進、高精度測位により精密な地図作成や洪水対策を含む幅広い分野で利用が可能な衛星測位技術を活用した「電子基準点網」の導入への日本の協力でも合意した。

 安倍首相は、東日本大震災後にタイが課した日本からの食品輸入規制について、撤廃に向けたこれまでのタイ側の努力を評価するとともに、食品安全法や規制に沿って、輸入規制の早期完全撤廃に向けて両国間で協力していくことを確認した。また両国首脳は、石油、天然ガス、石炭、再生可能エネルギー、省エネルギー、包括的エネルギー戦略など、エネルギー分野における二国間協力の重要性を確認。タイ・エネルギー政策対話の創設に向け協力することを確認した。両国首脳は、高効率石炭火力発電の推進がエネルギー安全保障と温室効果ガス排出の削減に貢献するとの考えを共有した。このほかにもJETROとタイの商業・工業・銀行合同常任委員会(JSCCIB)との協力覚書(MOC)の締結を歓迎し、二国間の観光客をさらに増やす考えで一致した。プラユット首相は、人的交流における日本の協力、特に安倍首相のイニシアティブにより実現した21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)の後継である「JENESYS2.0」を高く評価した。プラユット首相は、芸術・文化の双方向交流と日本語学習支援を促進する「文化のWAプロジェクト」にも期待を表明した。両国の大学間協力の強化についても一致し、日本の「さくらサイエンスプラン」の開始を歓迎し、科学技術分野の人的交流の一層の推進について合意した。

 日本は、ASEANの枠組みを通じて、進化する地域アーキテクチャーにおけるASEANの中心性に対し、引き続き支援していくことを改めて表明した。また戦略的パートナーとして、今年末に控えたASEAN経済共同体(AEC)の実現を後押しするとした。安倍首相は、プラユット首相が今年七月の第7回日本・メコン地域諸国首脳会議に参加することを歓迎し、こうした機会を通じて、日タイ両国が地域・国際社会の諸課題への対処についてさらに協力していくことを確認した。


日付 : 2015年02月16日

By : 週刊タイ経済

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