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タイ中央銀行の経済予測 今年の成長率を3.8%に下方修正

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は三月二〇日に発表した『金融政策リポート』最新号で、二〇一五年の経済成長率を3・8%増と予測し、一四年一二月時点の4・0%増から下方修正した。前号リポートでも今年の経済成長率予測値を引き下げており、下方修正は2号連続となった。二〇一六年の成長率については3・9%増と見ている。
 二〇一五年の経済成長率の下方修正は、世界経済の回復が予測よりも遅れていることが影響している。特に中国、アジア経済の減速が予測され、欧州の問題と中国経済減速によるリスクは高まっている。また政府の投資支出は従来の予測よりも遅れる見通しとなっている。景気回復が遅れていることは、消費者や企業の信頼感に悪影響を及ぼしており、民間消費支出や民間投資支出の伸びも従来の予測を下回りそう。一方、一般インフレ率は従来の予測を下回り、中銀が定める2・5プラスマイナス1・5%(1~4%)の金融政策目標を下回りそうだが、デフレを指し示すものではないとしている。また、国内の金利が長期間にわたって低位にとどまっており、高利回りを求める投資行動から生じるリスクを追跡する必要があるとした。
 同リポートは、中国経済が同国政府の経済改革計画により、予測された以上に減速していることを指摘。アジア経済も、中国向け輸出と産油国のアジア投資の鈍化にともない成長率が予測を下回るとした。G3では米国経済が順調に拡大する一方で、欧州と日本の景気回復は遅れている。貿易相手国の経済が特に中国、アジアで予測を下回りそうなことと、世界市場の原油相場に連動した商品価格の下落による輸出価格の下落から、物品輸出は回復が遅れそう。一二月時点では、二〇一五年の物品輸出額は前年比1・0%増を予測していたが、0・8%増に下方修正した。これに対しサービス輸出は上向いている。特に観光は中国人観光客の増加が続いており、欧州などからの観光客の伸びの鈍化を穴埋めしている。今年の外国人観光客数は昨年一二月時点で2650万人と予測していたが、最新号では2700万人に上方修正した。
 今年の経済成長を牽引すると期待されている政府投資支出は、伸び率が従来予測を下回る。政府機関の予算消化効率の問題、原油安にともなう建設発注費の引き下げ交渉による着工の遅れ、建設業の労働者不足が足を引っ張る。一方、政府消費支出は従来予測に近似した水準で伸びるものと予測している。
 民間消費支出も伸びが従来予測を下回る。二〇一四年最終四半期の成長率が予測を下回っているほか、世界経済とタイ経済の回復の遅れが消費者心理を圧迫しているため。また農業所得の低迷は長引きそうで、家計債務が高水準にとどまっていることも消費支出の拡大を妨げる。金融機関も消費者向けの貸付には慎重になっている。
 民間投資も回復が遅れそう。昨年第4四半期は予測を上回る収縮幅を記録しており、企業部門は景気回復状況や政府のインフラ投資の進捗を見守ろうとする意識が強くなっている。金融機関も企業向け融資には慎重になっている。
 金融政策リポート最新号は、経済成長が下振れするリスクとして、世界経済の回復が予想以上に遅れる可能性、政府支出が予算消化効率の問題から予測を下回る可能性を挙げている。一方で政府支出は、治水・道路補修プロジェクトなどの追加経済刺激策から予測以上に増加する可能性もあり、その場合は経済成長率も上振れする。家計消費支出も、原油安で石油小売価格がさらに下がれば予測以上に増加する可能性もある。ただし成長率が下振れするリスクは上振れする可能性を上回ると見ている。
 二〇一五年の一般インフレ率は0・2%増と予測し、3か月前の予測の1・2%増から大幅に下方修正した。原油安が主因で、インフレ率はタイ中銀の金融政策の目標範囲を下回ることになるが、コアインフレ率は1・2%増とした従来予測を据え置いた。中銀はコアインフレ率がプラス値にとどまることを理由にデフレの兆候を示すものではないとしている。今年一、二月の一般インフレ率は低下し、2か月連続でマイナス・インフレになっている。ただし大半の商品やサービスの価格は依然として上昇しているため、コアインフレ率はプラス値を保っている。
 MPCは三月一一日に開いた政策決定会合で、政策金利を0・25%幅で引き下げて年1・75%とすることを決定している。7人の委員のうち4人が0・25%幅での利下げを主張、3人の委員は据え置きが妥当とし、多数決で利下げを決定した。タイ経済の回復ペースが思ったように上がってきていないこと、財政支出による景気刺激効果が現れるまでにはなお時間を要すること、インフレ率が今後も一定期間は低位にとどまりそうなことを利上げの理由に挙げている。
 MPCの書記を務めるメーティ・スパーポン中銀総裁補は、二〇一四年最終四半期と今年一月のタイの景気回復が遅々としたものになっていることを指摘。特に民間消費と投資の勢いが予想よりも弱々しいものになっていること、その一因として民間部門の信頼感が低下していることを強調している。金融政策リポートは、今後の経済の回復ペースも前回会合時の予測を下回ると見ている。
 一方、財政局は一九日に開いた会見で、経済情勢と財政政策の成果について説明し、昨年の下半期の景気が上半期に比べて上向いていることを強調した。昨年下半期は消費、投資、物品・サービス輸出のいずれも上半期から上向いているが、民間部門の回復が力強さを欠いているため、景気回復は弱々しいものになっていると指摘。世界経済の変調の中、財務省が景気浮揚のために財政支出を加速させているとした。また長期的な経済開発のための措置や、低所得層の援助措置にも取り組んでいることを示している。
 エカニティ・ニティタンプラパート財政局次長は、昨年の上半期と下半期を比べた場合、実質経済成長率が0%成長から1・4%成長に、民間消費が1・3%減から2・0%増に、民間投資が7・2%減から4・0%増に、物品・サービス輸出数量が0・5%減から0・5%増に、外国人観光客数が10・9%減から1・2%減へと上向いた、または改善したことを指摘している。上半期は政治危機のため国内支出が収縮し、政府の予算執行や景気対策が制約を受けた上、世界経済も減速を続けたが、下半期には政治情勢が改善し、新政府の発足と景気対策の実施の結果、タイの景気は徐々に良くなっていった。このほかに、経済の安定性も申し分のない水準を保っている。二〇一四年の失業率は0・8%に過ぎず、一般インフレ率は1・9%増で、経常収支はGDP比3・8%の黒字、外貨準備高は年末時点で1548億ドルとなり、短期対外債務残高の2・7倍の水準になっている。
 政府は二〇一五予算年度の期初となる昨年一〇月以降、財政支出による経済システムへの資金注入を継続しており、今年三月一三日までの政府支出の総計は1兆5396億6600万バーツに達している。二〇一五年度予算の執行額は1兆1731億4900万バーツで、歳出予算総額2兆5750億バーツに対し、執行率は45・6%に達している。内訳は経常的経費が1兆592億2500万バーツで、執行率は49・8%、投資的経費が1139億2400万バーツで、執行率は25・3%。二〇一五年度予算のほかに継続費からの執行が1222億2300万バーツある。また稲作農家に対する現金給付は400億バーツの予算のうち、388億5500万バーツが執行されているほか、ゴム園農家に対する現金給付も82億バーツの予算のうち76億9200万バーツが消化されている。国家予算外の国営企業の投資予算の執行額は802億5100万バーツ、国家予算外の基金からの支出は1063億9600万バーツを数える。
 政府が財政支出による経済の刺激を進めている結果、財政収支は赤字になっている。二〇一五予算年度の期初からの最初の5か月間の政府現金収支は4118億7300万バーツの赤字となっており、民間部門の経済活動が完全には回復していない中で、財政が景気を下支えしていることを示すものとなっている。一方で、今年一月末時点の公的債務残高はGDPの46・5%の水準で、財政の持続可能性枠組で定める60%の上限を下回る健全なレベルを保っている。
 財務省は長期的な経済基盤構築のための措置にも取り組んでいる。競争力強化のための財政措置では、国際本部(IHQ)と国際通商センター(ITC)の誘致に向けた税制優遇措置、ターク県、ムクダハン県、サケーオ県、トラート県、ソンクラー県での経済特別区設置支援のための税制措置、中小事業向け法人所得税減税措置、ベンチャー・キャピタル・ファンドの設置、生産効率向上のための関税タリフ構造調整措置を導入したほか、低所得層の援助にも取り組んでいる。



日付 : 2015年03月23日

By : 週刊タイ経済

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