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EUのIUU漁業規制 タイが違法漁業国指定で警告

 欧州連合(EU)がタイのIUU(違法・無報告・無規制)漁業問題の是正に6か月間の猶予を与え、期間内に具体的な対策措置を講じるよう求めている。速やかに行動に移さなければ、制裁措置を課す可能性があることを示唆しており、タイの水産品業界は欧州28か国の市場を失う恐れが出てきている。タイのEU向け水産品輸出は年間50億ユーロに達する。プラユット首相は四月二三日、漁船登録や法整備の取り組みを急ぐため、暫定憲法第44条を適用する考えを示している。

 EUの環境・海事・漁業委員会は、タイが持続可能な漁業を目指すEUの取り組みに加わるよう求め、違法な漁業を取り締まることに失敗すれば、負の結果が待っていると最近になって通告。これに対し、タイ外務省は四月二一日、EUの決定を遺憾とする声明を出している。EUの決定は、タイの長年の協力を認めようとしないもので、タイは違法漁業問題に真摯に取り組み、法改正や新法の制定、取り締まりの強化や予防手段の導入を進めているとした。

 タイ政府は漁業労働保護状況を改善するため海上労働保護法令の制定に取り組んでいるところ。また人身取引や奴隷労働問題でも米国が昨年、人身取引の年次報告書でタイをTier3リストに入れたことを受け取り組みを急いでいる。こうした現在進行中の努力のため、タイの官民は、EUのIUU漁業問題について最終的に警告は解除されるものと楽観的に捉えている。

 チャッチャイ・サーリガンヤ商業相は、政府が今後6か月間に首相直轄のパネルを通じ、民間部門の協力も得ながらIUU漁業問題に取り組むと述べ、EUによる制裁は回避できるとの見方を示している。アピラディ・タントラポーン商業副大臣は、EUが警告を出したのはいくつかの法律がまだ制定されていないことが理由で、タイ政府の今後の取り組みの結果を見ればEUは納得するはずだとしている。

 EUの海事当局は二〇一四年一〇月、人身取引や未登録の漁船など、タイの水産業と関連した多くの重大な問題を指摘する書簡をタ
イ政府に送っていた。今回の警告は最後通牒で、サッカーになぞらえて「イエローカード」と言われている。外務省は、イエローカードがタイの水産品のEUによる輸入制限を意味すするものではないものの、タイ外務省は、「IUU漁業対策の進捗を考慮するようEUに求める」としている。

 サンサーン・ケーオガムヌード政府副報道官は、プラユット首相が関連する機関に体系的な解決の取り組みを加速するよう命じたことを明らかにしている。プラウィット・ウォンスワン副首相は、EUがイエローカードを出したのはIUU漁業規則に違反した者に対する処罰が軽すぎることに不満を抱いているからだと述べている。

 タイ冷凍食品協会のポット・アラムワタナノン会長は、労働保護状況を改善するための取り組みについて、EUとの間でより効果的なコミュニケーションが必要だと指摘している。同会長は、過去数か月間にEUの企業で、タイからの水産品の輸入を取りやめたり、買い付け数量を減らしたところは皆無で、タイの輸出企業はEUのバイヤーとの間で、タイの労働習慣について、よりよい理解を形成する努力を行なっているとした。

 水産最大手タイ・ユニオン・フローズン・プロダクツ社のティラポン・チャンシリ社長兼CEOは、EUによるイエローカードは、持続可能な漁業管理と海洋資源保護を前進させるための機会と捉えるべきだとしている。同社は政府の取り組みを全面支援するとしている。タイ政府は160万人の移民労働者登録を含む、多くの取り組みを行なっているが、広報の不足のため国際社会に伝わっていないとしている。

 国際貿易振興局によれば、今年最初の2か月間のEU向け水産品輸出は4600万ドルで、前年同期比21%減となっている。昨年の輸出額は3億8900万ドルで前年比39%減だった。ポット会長は、水産品輸出に打撃を及ぼしているのはEUによる特恵関税の取り消しとバーツ高ユーロ安だと説明している。

 タイ中央銀行のドーン・ナコンタップ・マクロ経済政策担当ダイレクターは、水産品のEU向け輸出は、タイの水産品輸出全体に占める割合が大きいため、制裁を受ければ水産業界に大きな衝撃になると警告している。タイの未加工水産品の輸出はEU市場が3番目の規模となっている。ただしドーン氏も、タイ政府が昨年以来、違法漁業や人身取引問題の解決に取り組んでいることから、制裁に直面することはないと信じているとした。

 プラユット首相は二三日、タイのIUU漁業問題への取り組みが遅々としてしたことを認めるとともに、暫定憲法第44条の適用に言及した。首相は、44条が違法漁業や人身取引問題を解決するための完璧な解決策ではないものの、問題解決にはより多くの人的資源が必要で、軍その他の政府機関が問題解決に向け一緒に取り組むことを手助けすると述べている。首相は、いくつかの法律がまだ整備されていない現状を指摘し、第44条に基づく命令を出す考えを示している。このほか第44条適用で漁船の登録を2、3か月以内に完了させるとしている。首相は、EUがイエローカードを撤回することを政府として保証することはできないが、問題解決のための時間は半年残されていると述べている。首相はこの問題で第44条を適用しても、違反者の訴追などは通常の法制によって対処することを強調している。

 スワパン・タンユワダナ総理府相は二二日、IUU漁業問題解決のため、あらゆる手段を用いる必要があると述べ、暫定憲法第44条の発動を視野に入れていることを明らかにしていた。アヌポン・パオチンダー内相も対策が容易になるとして第44条の適用を支持している。これに対し、ソムマイ・パーシー財務相は、すでに航空安全行政の問題に取り組むため第44条を発動していることを考えると、乱発は良くないと意見している。他の閣僚の中からも第44条の発動は問題をより複雑にする可能性があるとの意見が出ている。

 今年三月末時点で登録済みの漁船は5万1893隻で、約1100船が未登録と推測されている。登録済みの漁船のうち、排水量60トン超の大型漁船は約3500隻、30~60トン級は4700隻、10~30トン級は8000隻で、残りはそれ以下の小規模漁船となっている。

 プラウィット・ウォンスワン副首相兼国防相は、IUU漁業に対する政府の努力がはっきりとした形をとることが重要だと述べ、これまでの取り組みがEUの求める標準を満たしていなかったことを認めている。同副首相はタイ当局の取り組みをEUに説明するための委員会を設置するとしている。また漁船を追跡監視するGPS機器の取り付けを進め、漁港のある22県の319か所の港から出漁する漁船を検査する特別タスク・フォースも設ける。

【EUのIUU漁業規則】

 IUUはIllegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の略。IUU漁業規則は、商業漁業に従事する全ての漁船を対象とし、IUU漁業を起源とする水産物がEU域内に入域することを防止、抑止、廃絶することを目的に、2010年1月1日から全面的に施行されている。EU市場に出荷される全ての水産品(養殖魚、淡水魚などを除く)について、正当に漁獲されたものであることを漁船の旗国が証明する漁獲証明書の添付が義務付けられる。今回のEUの通知は違法漁業国指定を警告するもので、指定されるとタイ産水産品の禁輸措置が採られることになる。


日付 : 2015年04月27日

By : 週刊タイ経済

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