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二〇一五年の経済成長率予測 NESDBは3・0~4・0%増

 国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局は五月一八日に発表した「エコノミック・アウトルック」で、二〇一五年の経済成長率は3・0~4・0%増と予測した。二〇一四年の0・9%増からは加速するが、二月時点の予測の3・5~4・5%増から下方修正した。インフレ率はマイナス0・3~プラス0・7%の間で、経常収支はGDPの3・9%の黒字を見込んでいる。

 二〇一五年の経済成長は政府支出、政府投資が支援要因になる。二〇一五予算年度第2四半期末(三月末)時点の政府部門による経済システムへの資金注入額は1兆7280億バーツで、前年同期を9・8%上回っている。予算年度の下半期にはさらに約1兆4670億バーツの執行が予測され、前年度同期を14・7%上回り、上半期から伸びが加速する見通し。予算執行予測の内訳は年度予算が1兆750億バーツ、国営企業投資予算が2230億バーツ、繰り延べ予算が1260億バーツ、予算外金が247億バーツ、農民援助措置と第2期経済刺激措置の残金が17億バーツ。

 民間投資は二〇一四年下半期から二〇一五年第1四半期にかけて上向いている。特に設備投資が上向いており、資本財の輸入が増加に転じている。年の残り期間に民間投資は上向き続ける見通し。BOI投資奨励プロジェクトの認可が二〇一四年の下半期に5440億バーツ、二〇一五年第1四半期に2176億バーツとなっており、その一部は二〇一五年に投資を始めるものと予測される。また一部の工業種の設備稼働率が70%を超える水準まで上昇しており、生産能力拡張のための投資の需要が出始めると推測される。第1四半期に業況判断指数は7・四半期ぶりに中間値の50ポイントを上回る水準に上昇している。政府部門のインフラ投資プロジェクトが明瞭化し始めており、民間投資を刺激する。金利がなお低位にとどまり続けていることも支援要因になる。

 工業生産は回復する傾向にあり、徐々に経済成長への寄与を増していきそう。一四年最終四半期に拡大を始め、今年第1四半期には加速した。自動車工業は輸出が伸びる一方、国内販売台数も収縮幅が縮小してきている。また石油工業は前年の大掛かりなメンテナンスによる休止で比較ベースが低くなっていることもあり、生産の増加が見込まれる。国内需要向け工業(輸出比率30%以下)はプラス成長に戻し、国内需要の回復と観光セクターの成長にともない緩やかに回復してきている。また一部の輸出向け生産工業も成長が持続している。

 世界市場における原油価格は年の残り期間に、1バレルあたり55~65ドルにとどまる見通しで、一四年最終四半期の1バレルあたり93ドルを下回る。その結果、国内の石油価格は低位にとどまることになり、生産コスト面の圧力も低下し、国内需要の回復を支援するための金融緩和政策の継続にも資することになる。

 観光セクターは回復が続いており、経済の重要な推進力になる。第1四半期の外国人観光客数は790万人、23・4%増と予測を上回るものとなった。ホテルの客室稼動率は68・5%で、直近の2年間で最高となった。一五年の残り期間も外国人観光客数の増加は続く見通し。国内の政治情勢に対する信頼感が上向いており、一五年四月一日からの戒厳令解除の結果、外国人観光客は旅行保険で通常通り保護されるようになった一方、タイへの渡航に警告を発している国の数は減少を続けている。

 一方、輸出は経済成長に対する制約となっており、輸出の不振が経済成長率予測の下方修正の主因となっている。主要貿易相手国の経済が低迷していることが響いている。特に中国経済は減速を続け、日本の国内需要はまだ脆弱で、欧州経済は回復が遅れている。米国経済は年初に予測を下回る成長となっている。主要貿易相手国通貨が下落していることも物品輸出に影響を及ぼしている。特に第1四半期に円とユーロは対バーツで13・7%、17・8%下落した。さらに世界市場の商品市況の低迷が全ての商品カテゴリーの輸出価格を下落させており、その結果、第1四半期の輸出価格は1・8%下落している。

 農業生産は世界市場の市況の低迷と旱魃の影響を受けている。一方で生産コストは上昇し、生産技術の向上は遅れている。農業セクターの成長に影響を及ぼし、経済成長への寄与度を低下させることになる。家計債務が高水準にとどまり、景気が回復の初期段階にあることから金融機関は融資に慎重になっており、家計と企業の資金アクセスは困難さが増している。金融政策委員会は2回にわたって、合計0・50%幅の利下げを決定し、金融コストは低下しているが、金融機関による金利の引き下げは政策金利の動きよりも遅い。

 労働市場もまだ明確には上向く見通しにない。特に農業セクターと卸小売セクターの雇用が減少しており、新規に労働市場に参入した者の失業者が増加している。一部の工業セクターでは熟練労働者が不足しているものの、就労者の残業時間も減っており、1週あたり平均労働時間は減少している。

 NESDB事務局による二〇一五年のタイ経済の最新予測における経済成長率は、二月一六日の前回予測範囲の3・5~4・5%増を下回る。物品輸出の成長率の予測を下方修正したことが主因で、その結果、輸出による経済成長の牽引力は低下する。また民間需要の成長率も予測を下回る。

 消費支出の伸びは全体で2・3%増となり、一四年の0・6%増から顕著に加速するが、前回予測を下回る。輸出の伸びの下方修正と主要農産物価格の下落で、一部国民の所得ベースが低下している。ただし石油価格の下落、工業セクターの生産が上向いていることと観光収入が高水準で成長していること、さらには政府部門の農民援助措置の実施は、家計支出の回復の支援材料になる。政府消費支出は3・8%増と予測され、一四年の1・7%増から加速する。予算執行が上向いていることによる。

 投資は6・2%増で、一四年の2・6%減から上向く。民間投資は3・8%増と予測され、前年の2・0%減から加速するものの、前回予測を下回る。一方、政府投資は15・8%増と予測され、前年の4・9%減から上向くほか、前回予測を上回る。第1四半期の成長率が予測を上回ったことが上方修正の理由。追加の経済刺激策が導入され、治水・道路輸送システム開発のための借入プロジェクト総額782億9485万バーツが実施されることが大きい。また二〇一六予算年度の最初の四半期(二〇一五年一〇~一二月)の予算執行の予測も、歳出予算の大枠に沿って上方修正された。

 一五年の米ドル建ての物品輸出額は0・2%増が見込まれ、前年の0・3%減から上向くが、前回予測を下回る。世界経済と世界貿易量の成長率の設定値の下方修正、さらには第1四半期の輸出が予測を上回る収縮となったことにともない、輸出数量の予測を3・5%増から1・2%増に下方修正した。また輸出価格の設定値をマイナス0・5~0・5%増から1・5~0・5%減に下方修正した。ただしサービス輸出数量は前回予測を上回る伸びとなる。観光客数の設定値の上方修正に基づく。

 米ドル建ての物品輸入額は0・8%減と予測され、一四年の8・5%減から改善するが、前回予測の5・0%増からは下方修正した。輸出の成長予測の下方修正と国内の民間需要の伸びの下方修正にともない輸入数量の成長率予測は4・8%増から3・2%増に下方修正した。また石油価格の下落と主要国経済の減速にともない、輸入商品価格の下落が予測よりも広範なものになることから、輸入価格の設定値は3・5~2・5%減から4・5~3・5%減に修正した。

 一五年の貿易収支は266億ドルの黒字と予測され、前年の246億ドルを上回るが、前回予測を下回る。輸出額の下方修正幅が輸入額のそれを上回ることが理由。外国人観光客数の設定値の上方修正にともない上方修正されたサービス収支を合わせた一五年の経常収支は160億ドル、GDP比3・9%の黒字が予測され、一四年のGDP比3・3%を上回る。

 一五年のインフレ率は、0・3%減~0・7%増。一四年の1・9%増を下回るもので、前回予測からでも下方修正された。輸入価格の設定値の下方修正と国内需要の伸びが前回予測を下回ることが理由となっている。


日付 : 2015年05月25日

By : 週刊タイ経済

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