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景気回復の足取り重く 4月も内需が停滞、輸出は収縮続く

 財務省財政局が五月二八日に発表した月例経済財政報告、タイ中央銀行が二九日に発表した月例経済金融報告によれば、タイの景気は四月期も内外需の不振により横ばいを続けている。民間消費と民間投資は収縮し、物品輸出は4か月連続で減少した。サプライサイドでは、農業生産が引き続き収縮しているほか、工業生産も再び収縮に転じた。順調に拡大しているのは、デマンドサイドでは政府支出のみ、サプライサイドでは観光関連産業のみとなっており、景気の回復は当局の予想以上に遅れる見通しが強まっている。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局は二〇一五年の経済成長率予測を3・0~4・0%増に下方修正したばかり。タイ中央銀行は三月時点で一五年の経済成長率を3・8%増と予測していたが、六月一九日に発表する『金融政策リポート』最新号での下方修正を検討している。一方の財務省も四月終わりに通年の経済成長率を3・7%増と予測していたが、七月終わりに発表する最新予測では下方修正が予想される。

 五月二九日発表のタイ中銀の月例報告によると、サプライサイドでは四月の農業所得は季節調整済みの前月比で2・9%減少した。収量と価格の双方が下落したことによるもので、農業所得は前年同月比で19・7%も減少した。農業生産は前年同月比13・2%減。水不足で乾季米の生産が細った。天然ゴムも価格下落が生産者の意欲を殺ぎ、生産が収縮した。農業価格指数は前年同月比7・5%低下した。天然ゴムの国際市況の下落、畜産品の価格下落が響いている。

 四月の工業生産は前月比で収縮した。これに一致して燃料・化学品を除く原材料輸入と自動車部品輸出が収縮し、企業部門の電力消費量が横ばいとなった。製造業の作業時間数は前月から上向いたものの、その多くは皮革、セメント・建材など、製造業全体に占める割合が小さいか相対的に付加価値の低い産業が多く、製造業全体の改善を示すものにはなっていない。また生産の収縮の結果、設備稼働率も季節調整済みの前月比で低下した。工業生産の前年同月比での収縮は主に輸出向け工業の生産減によるもので、特にハード・ディスク・ドライブ(HDD)の生産が前月比でも前年同月比でも落ち込んでいる。背景には記憶装置の主体がソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に置き換わる流れがある。TV受像機の生産は、大手メーカーの近隣国への生産拠点の再配置を受けて収縮した。電化製品の生産は特にエアコン、扇風機で内外の需要の鈍化にともない生産が鈍化した。タバコの生産は三月二七日の物品税引き上げを前にした在庫投資の反動から減少した。

 これに対し、食品・飲料の生産は増加した。国内需要と観光セクターの成長にともないビールの生産が増えた。砂糖の生産は前年に比べてサトウキビの収穫時期がずれ込んだことと、過去最高の豊作から増加した。石油生産は国内需要の好転、製油マージンの上昇を背景に生産が拡大した。また自動車生産は輸出向け生産が牽引する形で拡大した。特にエコカーと商用車のオーストラリア、欧州向け輸出が伸びている。

 観光セクターは、四月の外国人観光客数が230万人となり、前年同月比で18・3%増となった。季節調整済みの前月比でも1・7%増となった。季節調整済みのホテル客室稼働率はこの月に65・0%となり、前月の62・2%から上昇した。外国人観光客増に加え、今年のソンクラーン連休が土日と合わせて5連休になったことがタイ人の国内旅行増をもたらした。

 不動産セクターは、バンコク首都圏の市況は横ばいだが、コンドミニアムは供給と需要の双方で上向いた。不動産市場の需要はなお低迷しており、分譲住宅の予約率(3か月移動平均)は前月の21・8%から20・9%に低下した。しかしコンドミニアムの需要は前月から上向いている。商業銀行の融資承認件数が伸びている。また供給も前月比で増加している。コンドミニアムでは分譲価格が100~200万バーツ、500~1000万バーツ、低層住宅では200~500万バーツの物件が伸びている。

 サービス・セクターはほぼすべての分野で前月から上向いた。特に観光関連サービス業が伸びており、タイ経済の主要な牽引力になっている。ホテル・レストラン業、流通業、空輸などが観光業の成長の恩恵を受けている。また通信も成長が続いている。

 デマンドサイドでは、民間消費が前月比で収縮した。農業所得の減少、非農業セクターの家計の所得の伸びの失速が原因。製造業やサービス業の雇用は伸びているものの、その多くは時給の高くない労働者集団となっている。景気の先行きに対する懸念から家計はすべての物品・サービス・カテゴリーにおいて支出に慎重になっている。耐久財、サービスの支出は上向いているが、その多くが外国人観光客の支出となっている。

 民間投資は小幅収縮した。国内外の購買力が脆弱で、企業の設備能力増強の必要性は低下しているほか、景気の先行きを懸念している。設備投資では、資本財輸入が収縮を続けている。また商用車はトヨタによる新モデルの発表を前に買い控えが響いた。ただし国内の機械販売台数は高水準を保っている。その多くは生産効率改善を目的とした国内で調達可能な機械設備となっている。建設投資は横ばい。不動産市場がまだ顕著に回復しておらず、政府のインフラ投資もまだ初期段階にあるため。

 中銀によると、四月の物品輸出額は167億4900万ドルで、前年同月比1・7%減となった。一方、輸入額は150億4100万ドルで、同9・1%減だった。


日付 : 2015年06月01日

By : 週刊タイ経済

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