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300バーツ最低賃金を廃止 来年初めより県別賃金制復活へ

 ナコン・シラパアーチャー労働省次官が六月六日に開かれた賃金委員会をテーマとしたセミナーで、今年末に全国一律300バーツの最低賃金制度を廃止すると発言したことが波紋を呼んでいる。詳細な内容が不明な中で、一部の県の最低賃金が引き下げになるとする風説が急速に広まった。二〇一六年初めから最低賃金を県ごとに設定する方針は、六月五日の賃金委員会の会合で決定されている。

 プラユット政府は、プアタイ党の前政権が導入した全国一律の最低賃金制度を廃止し、県ごとに最低賃金を設定する旧来の制度に戻すことを考えている。過去に採用されていたのは、各県ごとの経済や生活費をベースに、各県に設置される賃金委員会が適正な最低賃金を具申し、中央賃金委員会が決定する方式。労働省当局は適正な賃金水準と決定プロセスについて研究しているところで、ナコン次官は、制度変更により雇用を守りつつ、競争力を向上させ、将来的な賃金の引き上げを通じて労働者の生活状態も改善されるとしている。同次官は、労働者は技能と生産性を改善する必要があると述べており、安易な賃上げはしないことを示唆している。

 来年一月からの最低賃金の改定にあたっては、各県の賃金委員会がこの一〇月までに具申を行なう。来年から適用になるレートは少なくとも1年間は固定される。労働省のスポークスマンを務めるアーラック・プロムマニー副次官は八日、1日あたり300バーツの最低賃金を廃止するというのは誤報であり、300バーツの賃金レートを取り消すものではないと述べている。賃金の改定は、据置きか、または引き上げを意味するもので、基準になるのは300バーツで、これを下回る賃金レートはあり得ないと説明している。

 全国一律300バーツの最低賃金は、二〇一一年の下院総選挙時におけるプアタイ党の政権公約で、2年ごしで二〇一三年一月より導入されている。アーラック副次官は最低賃金について、いかなる決定もなされてはおらず、ナコン次官のセミナーでの発言は、国立経営大学院(NIDA)に委託した最低賃金制度研究の答申内容の一部に過ぎないとしている。ただし同副次官も、政府が全国の最低賃金レートを統一する必要がないと考えていることは認めている。同次官は二〇一六年初めからの最低賃金の調整はこの一〇月に決定がなされるとしている。

 労組中央団体のタイ労働連帯委員会は、三月に実施した調査では労働者の生活費は二〇一三年時点からほぼ倍増し、1日あたり360バーツに達している。

 全国一律での最低賃金の導入は労働界の悲願だったもの。県ごとに最低賃金を決める旧来の制度への変更は労組中央団体が反対している。タイ労働連帯委員会のウィラワン・セーティア委員長は、県賃金小委員会が最低賃金を設定する権限を持つとした新制度には反対すると述べている。労働側の発言力が十分に強くない地方では、労働者に不利な賃金レートが決定されてしまうと警戒している。同委員長は、地方の労働者の多くは賃上げ要求における法的な知識を持っていないと述べている。

 ナコン労働省次官は、賃金委が最低賃金見直しの方法として、県小委員会による設定のほか、自由化や産業別賃金制度の導入などの方法も検討していると述べている。同次官は、最低賃金が使用者と被雇用者だけでなく、より広範な経済に影響を及ぼすことを指摘。最低賃金レートの設定は政治的に歪められてはならないとしている。

 プラユット首相は最低賃金について、一律での引き上げは実現可能ではないと述べている。賃金を引き上げても、雇用側に余裕がなければ雇用を手控えるだけで、逆効果になるとの見方も示し、300バーツの賃金水準を維持するだけでも精一杯との認識を示している。また近隣国に比して割高な賃金は外国人移民労働者の流入を招くだけで、得をしているのはタイ人の職を奪っている移民労働者だけとも発言している。

 産業界は県ごとに最低賃金を設定する制度への復帰を歓迎している。タイ工業連盟(FTI)のスパン・モンコンスティ会長は九日、全国一律の賃金レートの廃止に同意すると述べている。ただし過去2年間における300バーツの賃金水準が特に中小企業を疲弊させ、競争力を低下させたと指摘。二〇一六年からの最低賃金の引き上げには警戒している。スパン会長は、熟練した労働者を必要とする産業では、労働者に1日あたり300バーツを上回る賃金を支払っていることを指摘している。スパン会長は、各県の最低賃金を引き上げるかどうかは、その地域の生活費の動向に沿うべきだと主張している。

 二〇一三年一月から最低賃金が300バーツに引き上げられるより1年前の二〇一二年初めの時点では、一部の県の最低賃金は150バーツ余りに過ぎなかった。わずか1年で賃金がほぼ倍増した格好で、労働集約型産業の多くは、こうした人件費の急騰に疲弊。こうした賃金の急騰を機に縫製工場などでは近隣国への工場移転が加速度的に進行した。工業省のデータによれば、生産コストに占める人件費の比率は賃金の大幅引き上げ前の11・9%から16・1%へと上昇している。


日付 : 2015年06月15日

By : 週刊タイ経済

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