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中部の旱魃被害と水危機が深刻に 水の確保、農民援助で政策総動員へ

 政府は六月二四日に経済閣僚会議を開き、深刻な旱魃危機対策について協議した。北部や中部のダムの貯水量が激減し、放水量を絞り込んでいるが、例年ならばすでに雨が降り始める季節にも関わらず、ダム上流部では雨季入りする兆しはなく、七月終わりと予想される本格的な雨季入りまでの水の確保が至上命題になっている。この日の会議では、地下水の汲み上げで一部地域の水の供給を確保するほか、田植えができないでいるチャオプラヤ・デルタの稲作農民に対する援助の実施を決定した。

 農業・協同組合省灌漑局によれば、主要ダムは二〇一四/二〇一五年乾季の初めの時点から水量が不足しており、同局は昨年末に乾季米の栽培のための水の供給停止を発表し、稲作農家に乾季米の栽培自重を求めていた。年度米栽培期の十分な水を確保することが狙いだった。しかし一部の農民が乾季米を栽培し、その面積は626万ライに及んだため、使用した水の量は計画を12億立米上回っていた。その皺寄せに加え、エルニーニョ現象で雨季入りも遅れているため、旱魃の被害が深刻化している。

 農業経済事務局(OAE)は、チャオプラヤ流域のコメ栽培農家ケースで、初期的に生じる経済的影響予測を行なっている。現時点で年度米をまだ栽培していない水田面積は461万ライ。もし当該地域で年度米を栽培できないとすれば、失われるコメの収量は210万トンとなり、金額にして157億5000万バーツに達する。

 農業・協同組合省の人工雨・農業航空局は、北部のダムの水量を増やすため、三月から人工雨オペレーションを継続実施している。人工雨オペレーションは今後も継続し、頻度も増やす。また地下水を汲み上げることで水を確保すべく、陸軍と地下水資源局が共同で880か所で井戸を掘削する。地下水利用によって85万ライの水田が旱魃被害から救われると見ている。経費は8400万バーツ。

 チャオプラヤ・デルタで、すでに田植えを行なっている水田284万ライに関しては、水の使用を極力減らすための営農指導を灌漑局、米穀局、農業振興局が共同で実施する。一方、まだ田植えをしていない461万ライは、水の状況についての広報と農民の理解形成に取り組み、生じる損失を減らすため、田植えは七月の終わり、または本格的な雨季入り後にとりかかるよう指導する。農民が田植えの時期を遅らせる40~45日については、農業振興局を主務機関として、米穀局、農業技術局、農地開発局が農民の困窮軽減措置について検討する。プラユット首相は、コメの代わりになる他の換金作物を栽培したい農家には資金を融通したいと語っている。

 灌漑局は二〇一一年の大洪水の教訓から、ダムの貯水能力を確保することを最優先する用水管理を行なってきた。そこに昨年の少雨が重なったため、主要ダムの貯水量は乾季の初めから例年の水準を下回っていた。プラユット首相は、「我々は水資源管理を誤った。今は貯水量を増やすことに専念する必要がある」としており、灌漑局に用水管理の調整を命じている。

 ソムマイ・パーシー財務相は、農業・農協銀行(BAAC)が旱魃被害に直面している農家に対し、6か月間の元利支払い猶予措置を設け、七月一日より開始することを明らかにしている。財務相はまた、追加の援助措置について検討していることも明らかにしている。

 旱魃の経済成長に及ぼす影響は、被害状況がどの程度のものになるのかが予測不能なため、これまでに多くの機関が発表した経済成長率の予測には反映されていない。タイ中央銀行は最新の『金融政策リポート』で今年の経済成長率の予測を3・0%増へと下方修正しているが、これには旱魃の影響は含まれていない。国家経済社会開発委員会(NESDB)事務局が五月中旬に発表した『エコノミック・アウトルック』では今年の成長率を3・0~4・0%増としているが、これも旱魃の影響を考慮していない。七月下旬には財務省財政局が最新の経済成長率予測を公表する予定で、この予測は旱魃被害の影響も含めたものになりそう。四月下旬時点における財政局の経済成長予測は3・7%増。

 HSBCのナリン・チュチョーティタム首席エコノミストは、旱魃被害について確実に今年の経済成長の下押し要因になると指摘。今後の金融・財政政策を方向付ける重要な因子の一つになるとしている。タイ中央銀行は直近の会合で政策金利の据置きを決定しているが、旱魃問題が深刻化する前の決定であることを指摘している。

 一方、首都水道公団(MWA)のタナサック・ワタナタナ総裁は二四日、チャオプラヤ川の流量の減少で、新月や満月の大潮時には海水の逆流が、MWAの取水地点まで達する可能性があることを指摘。水道水の塩分濃度が高まるなど水道水生産での水質に影響が出る可能性を警告した。総裁は各家庭に60リットルの飲用水を蓄えておくよう呼びかけている。総裁は鹹水が浄水場に侵入する場合には、塩辛い水道水になるかも知れないと述べている。MWAは消費者がリアルタイムで水質をチェックできるよう公団のウェブサイトにデータを公開している。水の電気伝導率の数値を公開しており、この数値が700ユニットを上回れば消費には向かなくなり、1200ユニットに達すれば塩辛くなるという。

 灌漑局は来年四月まで、チャオプラヤ水系の4つの主要ダムからの放水量を日量3300~3500万立米から2800万立米に削減することを発表している。プミポン、シリキット、ケーオノイ、パーサック・チョラシットの4つのダムからの放水量は六月二九日より削減される。このためチャオプラヤ川の水位はさらに低下することになる。

 MWAのタナサック総裁は、バンコク首都圏の消費者向けに十分な水道水を供給できることを強く主張している。MWAによると、公団が生産する水道水は日量520万立米。このうち390万立米は厳しい旱魃の影響を受けている中部平原の貯水池からの水を使っているが、残りはカンチャナブリ県の2つのダムの水となっている。このため最悪のケースでもMWAはカンチャナブリ県のシーナカリン・ダムとワチラロンコン・ダムの水を使って水道水生産を保つことができるという。

 タナサック総裁は、水不足に呼応して、バンコク都内のバンケン浄水場での水道水生産を日量390万立米から360万立米に減らす方針を明らかにしている。この結果、水圧は低下することになる。

 プラユット首相は、関係諸機関が旱魃の影響は来年初めまで続く可能性があると警告していることを明らかにし、旱魃対策に軍が全面協力することを約束している。独立行政法人地理情報・宇宙技術開発機構のアーノン・サニットウォン・ナ・アユタヤ総裁は、エルニーニョの影響は明らかだとし、雨量が細り、雨期の水不足を起こすため、問題に取り組むための不測事態対応計画が必要だとしている。一方で、アーノン総裁は、インド洋熱帯域における大気海洋現象であるダイポールモード現象が発生しており、八月終わりから九月にかけての降雨が期待でき、旱魃の被害はある程度和らぐとしている。

 水をめぐっては、中部のチャイナート県とスパンブリ県の農家の間で争いが生じている。スパンブリの農家がマカームタオ・ウートン運河の水を田に引き入れたことにチャイナート県の農家が激怒し、一触即発の事態になった。二五日には現地灌漑事務所に両県の農家の代表が集まり、水門やポンプの稼動をめぐり、限られた水資源を分配するための協議がなされている。灌漑局の現地事務所長は農家の水をめぐる争いが先鋭化するようであれば、軍に助けを求めることも考えなければならないと述べている。


日付 : 2015年06月29日

By : 週刊タイ経済

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