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来年からの最低賃金引き上げ 産業界は実施延期求める

 産業界は、県別最低賃金制度復活構想を含む、最低賃金の引き上げにつながるいかなる計画も延期するよう政府に求めている。商業、工業、銀行の3経済団体の合同常任委員会(JSCCIB)の総意として政府に具申した。賃金引き上げは経済にネガティブな影響をもたらすとしている。

 タイ工業連盟(FTI)のスパン・モンコンスティ会長は、FTIが国立経営大学院(NIDA)と共同で民間企業1303社を対象に実施したアンケート調査の結果、21・8%が1日あたりの最低賃金を自由化する、または300バーツから引き上げる計画に反対していることが分かったと述べている。さらに18・2%は、最低賃金を据え置いても熟練労働者の賃金は適切に上昇するとし、15・5%は賃金は各県の生活費を基準にすべきだと回答している。このほか13・6%は、政府は最低賃金を上げる決定の前に、ビジネス・セクターに意見を求めるべきだとしている。スパン会長は、産業界が七月にもう一度会議を開き、産業界の懸念を聞くよう政府に具申すると述べている。

 国家賃金委員会は、今年末に全国一律300バーツの最低賃金制度を廃止し、二〇一六年初めから最低賃金を県ごとに設定することを方針決定している。その際にベースとなるのは300バーツで、各県の最低賃金が引き下げになることはないとしている。各県ごとの経済や生活費をベースに、各県に設置される賃金委員会が適正な最低賃金を提案し、中央賃金委員会が決定する方式は、全国一律最低賃金制度が導入される前に実施されていたもので、二〇一六年より旧制度に戻すことになる。経済界は県別最低賃金制度の復活には賛成しているものの、それが最低賃金の300バーツからのさらなる上昇につながることには反対している。全国一律300バーツの最低賃金は、二〇一一年の下院総選挙時におけるプアタイ党の政権公約で、2年ごしで二〇一三年一月より導入されていた。

 労働省の計画では、来年一月からの最低賃金の改定にあたっては、各県の賃金委員会が今年一〇月までに提案を行なうことになっている。来年から適用になるレートは少なくとも1年間は固定される。

 NIDAのカムポン・パンヤーゴーメート副学長によれば、アンケート調査では51%の回答者が最低賃金の300バーツ据置きを求めている。カムポン副学長は、多くの会社は300バーツ最低賃金により過去に厳しい影響を受け、労働コストを抑制するため近隣国への移転を余儀なくされたとしている。

 タイ使用者連合のターニット・ソーラット副会長は、産業界が六月三〇日に集まって最低賃金を議論することを明らかにしており、会合で集約された意見をまとめて労働省に送るとしている。労組中央団体のタイ労働連帯委員会は、三月に実施した調査では労働者の生活費は二〇一三年時点からほぼ倍増しているとして、1日あたり360バーツへの引き上げを要求しているが、ターニット氏は、360バーツでは多くの中小企業はやっていけなくなると述べている。タイ労働連帯委員会は、元の最低賃金制度に戻れば、各県の賃金委員会が自県の最低賃金を中央賃金委に提案することになるが、労働側の発言力が十分に強くない地方では、労働者に不利な賃金レートが決定されてしまうとしている。

 タイ労働連帯委員会など労働団体は六月二五日、最低賃金の全国一律360バーツへの引き上げ要求を掲げてロイヤルプラザ前で集会を決行し、総理府に向けデモ行進した。タイ労働連帯委員会のウィライワン・セーティア委員長は県別賃金制度には反対すると述べている。ウィライワン委員長は、公務員や国の職員の賃金上昇率は全国で統一されていることを指摘。従って労働者の賃金も一律で引き上げられるべきだと主張している。

 一方、タイ労働連合会(CTL)のマナット・コーソン委員長は、360バーツに固執せず、むしろ物価上昇率をわずかに上回る水準での毎年の調整を約束してほしいと主張している。さらに最低賃金は勤務経験1年未満の未熟練労働者にのみ適用することとし、勤続1年以上の労働者にはベアを義務付ける法的メカニズムを設ければ、労働者は最低賃金の動向にのみ注目する必要はなくなるとしている。

 産業界は県ごとに最低賃金を設定する制度への復帰を基本的には歓迎している。ただし過去2年間における300バーツの賃金水準が特に中小企業を疲弊させ、競争力を低下させているため、二〇一六年からの最低賃金の引き上げには反対している。

 なおプラユット首相は労働界が求める360バーツへの引き上げ要求に対し、国の置かれた状況を理解してほしいと述べ、引き上げに消極的姿勢を示している。


日付 : 2015年06月29日

By : 週刊タイ経済

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