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人民元の連日切り下げ 産業界 輸出への影響注視 ASEAN市場で競争激化も

 中国人民銀行が8月11、12日に人民元レートを切り下げたことがタイ経済、とりわけ物品輸出に及ぼす影響を懸念する見方が広まっている。中国の通貨当局による連日の人民元切り下げは、物品輸出の浮揚を期待したものと見られ、タイの物品輸出にマイナスの影響が出ることになるからだ。タイの輸出企業は、中国政府による弱い人民元への政策転換について、タイの輸出競争力を低下させると警告している。

 カシコン銀行のエコノミストは、中国経済に関し、中国当局が予想した以上に景気が減速し、抜き差しならない状況になっていると分析している。中国政府は人民元をドル、ユーロ、円やポンドと並ぶ世界の準備通貨とするべく、通貨の安定に腐心してきた。今年3月以降、アジア域内通貨が弱基調にある中でも人民元レートを維持してきたが、結果として中国の競争力を低下させていた。

 通貨切り下げ競争に中国が新たに加わったことで、競争力を維持するためにバーツ安誘導を求める声は特に産業界で高まる見通しにある。タイ中央銀行は今年4月終わりに、市場を出し抜く利下げと資本移動規制の緩和措置を発表し、通貨安競争に加わっている。しかしタイの政策金利はすでに年1・50%の水準まで下げており、バーツ安誘導のために政策金利をさらに引き下げる余地は少なくなっている。金融当局は4月以降に2回開いた政策決定会合で金利の据置きを決定している。

 ソムマイ・パーシー財務相は、一層の金利引き下げについて、預金者に及ぼす影響が大きいとして否定的だ。ソムマイ大臣が期待するのは、早ければ9月と観測されている米国の利上げ。米国がFF金利を引き上げると、投資マネーは米国へとシフトし、ドル高基調をもたらすため、バーツ安を誘導するものと予想されている。

 タイ中央銀行のチャンタワーン・スチャリットクン総裁補は、人民元切り下げが域内通貨安を引き起こすのは想定内の動きと指摘。人民元切り下げで中国経済を上向かせることになれば、タイを含むアジア域内の貿易にプラスになるとしている。

 タイからは中国の輸出向け生産のための原材料や中間財の輸出供給もあるため、中国の物品輸出が上向けば、タイの中国向け輸出も上向くことになる。中国はタイにとって最大の輸出市場で、昨年のタイの中国向け物品輸出額は2兆600億バーツ、タイの輸出額全体の14%を占めている。今年1~6月の中国向け輸出額は1兆600億バーツで、全体の14・8%を占めた。中国はタイの観光産業にとっても主力の観光客市場となっているが、人民元安がタイを訪れる中国人観光客数に及ぼす影響はさほど大きくはならないと見られている。

 タイ荷主評議会(TNSC)のワロップ・ウィタナコーン副会長は、人民元安に連動してバーツも弱基調となっているため、物品輸出に及ぼす影響を予測することは時期尚早だと述べている。ただし、タイ、中国の両国にとって主力輸出市場であるASEAN市場では、タイの製品は中国製品との競争が激化すると見ている。

バーツ、株価は下落

 アジア域内通貨は人民元安に連動する格好で軒並み下げているものの、8月11日のバーツの対ドル・レートの減価幅は域内の他国通貨に比べると小さくなっており、交易条件の悪化を懸念する声が高まった。11日のタイ中銀参照レートは1ドル=35・296バーツ。韓国ウォン、台湾ドル、オーストラリア・ドルなどが前日比で1%超下落する中、バーツの下げ幅は1%未満にとどまっている。12日の祝日を挟んで13日の外為市場は小幅反発し、タイ中銀参照レートで1ドル=35・217バーツとなっている。

 バーツは弱基調にあるものの、域内の競合国通貨も同様に下落しているため、物品輸出への寄与度は限られるとの見方もある。バーツの対ドル・レートは11日時点で年初に比べて約7%減価しているが、マレーシア・リンギットの約12%減、インドネシア・ルピアの約8%減、ユーロの約9%減を下回っている。ある通貨ディーラーは、バーツの対ドル・レートが一時的に36バーツ台まで下げることを想定している。ただしタイ経済の回復が鮮明になれば、バーツはある程度まで下げ分を取り戻すとしており、年末時点のバーツ相場を1ドル=35バーツと予測している。

 一方、タイ株式市場も平均株価が下がっており、下値が一段と切り下がっている。11日のSET平均株価指数終値は1408・32ポイントで、前日比11・81ポイント、率にして0・83%下げた。外国人投資家は11日に12億1000万バーツを売り越した。12日の祝日を挟んで、13日の株式市場も続落し、SET指数は一時1400ポイント台を割り込んだ。13日の終値は1404・15ポイントで、前営業日比で小幅安にとどまった。この日は1400ポイントを割り込んで取引が始まり、一時は1382・70ポイントまで下げていた。大引け前の30分間に買い戻しが入ったことで1400ポイント台は維持している。中国の経済問題を理由にFRBが9月の利上げを断念するとの観測が急浮上したことが株価を支えた。ある市場関係者はタイ株式市場の底堅さを指摘、下値はせいぜい1370ポイントと分析している。


日付 : 2015年08月17日

By : 週刊タイ経済

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