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  労働契約については民商法典第3編に原則が規定されていますが、労働保護法は雇用契約の終了手続きなどについて民商法典を踏まえつつ規定されています。雇用契約には期間を定めることも定めないこともできます。ただし、労働保護法は解雇手当の章において、解雇手当の支払いを免れる有期雇用を一定の場合 ※ に限定しています。

  製造業の工場で働くワーカー(工員)は20歳未満が多いですが、未成年者と労働契約を結ぶ場合、民商法典27条により親、親権者などの同意が必要となります。

  ※ 労働者保護法118条(第4項)で「期間の定めのある雇用」とは(通常の事業ではない)特別のプロジェクトに関する雇用で、開始と終了の期間が明確であり、臨時的、季節的な業務に限られる、と規定されている。

【労働契約の終了】

  タイの労働雇用契約は、労働法と民商法典の規定の束縛を受けます。民商法の規定により、期間の定めのない雇用契約については、1賃金支払期間前に書面で予告することによって雇用契約を解除することができます。1賃金支払期間前とは、次の給与支給日までの期間という意味です。例えば、毎月30日が給与支給日であれば、当月の30日かそれ以前に、翌月の30日に解雇すると通告する必要があります。ただし、妊娠を理由とした解雇の禁止、労働組合の役員についての特別規制などがあるなど、一般に不当な解雇は労働裁判所により無効とされています。

  上記のように、会社(使用者)の都合で解雇する場合、事前通告が必要な点は日本と同じですが、タイでは日本と異なり、労働者保護法118条により、下記の表のように、120日以上勤続した労働者には勤続年数に応じた解雇補償金(解雇手当)を支給する必要があります。会社都合の解雇の場合でも、解雇補償金を払うことで不当解雇にはならないのです。

  また、労働者保護法17条により、事前通告をしなくても、事前通告から解雇の日までに支給しなければならない額の賃金を支給することで即時解雇も可能です。日本でも使用者都合で労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告し、30日前に予告しない場合、30日分以上の平均賃金を支給することが義務付けられている(労働基準法20条1項)のと同様、労働者が使用者の都合で一方的に解雇されて経済的に困らないようにするための規定です。

解雇補償金(解雇手当)の支給金額
勤務期間 最終賃金に対する支給金額
120日以上1年未満 最終給与の30日分
1年以上3年未満 最終給与の90日分
3年以上6年未満 最終給与の180日分
6年以上10年未満 最終給与の240日分
10年以上 最終給与の300日分

  タイの労働者保護法は、勤続年数による通常の解雇手当以外にも、下記の場合、使用者が労働者に対して、通常の解雇手当てに上乗せした金額を支給する義務を定めている。

  (1) 事業所を移転する場合は30日以上前に通告し、新しい事業所で働くことを望まない労働者に対する特別解雇手当を支給する義務がある(120条)。
  (2) 企業規模の縮小など、業務改善が理由の解雇の場合、60日以上前の通告が必要で、6年以上の勤続者には勤続1年当たり15日分以上の解雇金を通常の解雇手当てに上乗せして支給する義務がある(121条)。

  ただし、労働者保護法118条、119条により、下記のように一定の法定事由※がある場合の解雇、及び自主退職の場合には解雇手当の支払いを必要としません。その場合、労働者保護法17条により事前通告も不要です。

  労働者保護法118条、119条が定める解雇の理由となる一定の法定事由
  (1) 期間が明確に定められており、その定めにより雇用を終了する場合(労働者保護法118条3項)
  (2) 会社に不正行為を行い、使用者に対して故意に刑事犯罪を犯した場合
  (3) 使用者に対して故意に損害を与えた場合
  (4) 過失により使用者に重大な損害を与えた場合
  (5) 就業規則、使用者の合法的、正当な命令に違反し、文書で警告を受けた場合
  (6) 正当な理由がなく、3労働日連続して職務放棄した場合(3労働日間の休日の有無は不問)
  (7) 最終判決により禁固刑を受けた場合(過失、軽犯罪によるものを除く)

  ただし、労働者が上記理由に該当しないと労働裁判所に提訴した場合は、裁判で争うことになります。タイの労働裁判においては、労働者側に有利な判決が出るケースが多いため、労働者側に不正行為や規則違反などがあった場合、口頭だけではなく、警告書を出すなどの書類を揃えておく必要があります。

【試用期間中の労働者の解雇について】

  120日以上の勤続者には解雇補償金の支払いが必要であるところから、就業規則において、採用から119日以内(3ヶ月もしくは90日~4ヶ月)を、試用期間(通常、プロベーションと呼ばれる)と定め、その間に仕事の適性を見て、適性でないと判断する場合は解雇することがある旨の雇用契約を、労働者と交わすのが通常です。雇用契約において、試用期間中に使用者の満足に値しないとき解雇することを定めていれば、解雇しても不当解雇とはならないためです。

  労働者保護法118条に「119日以内の勤続であれば解雇補償金は必要ない」と定めてあるため、119日以内の解雇については、解雇補償金は必要ありません。

  ただし、タイの最高裁判決(2002年)(※注1)によれば、試用期間は労働者保護法17条第1項(※注2)の「期間を定めた雇用契約」ではなく、労働者保護法17条第2 項に基づく「期間の定めがない雇用契約」と判断されています。そのことから、たとえ使用者が試用期間を定め、その期間中の労働者であっても、労働者保護法には特に試用期間に関する規定はありませんし、本採用後の労動者と同様に事前通告が必要となります。事前通告を行わず即時解雇する場合は、労働者保護法 17条(第2項及び第4項)により、事前通告に代わる補償金(解雇の日までに支払わなければならない賃金相当額)の支払いが必要です。ただし、労働者が、労働者保護法119条に規定された不正行為や重大な規則違反をした等の理由により解雇する場合には、事前通告も解雇補償金の支給も必要なく、即時解雇が可能です。

  (※注1) 判決は「(使用者は)労働者に満足な能力があれば引き続き雇用するため、雇用契約がいつ終了するか明確ではなく、雇用の期間の定めがない契約である」と判断。
  (※注2) 労働者保護法17条(第1項)では「雇用契約で定めた期間が満了したとき、予告を行わなくても雇用契約は終了する」と規定されている。

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