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  1998年に制定された労働者保護法により、10人以上の社員がいる会社(注1)の使用者は、会社保障基金の加入と同時に、就業規則の作成が義務付けられました。就業規則は事業所内で使用者と労働者の間に紛争や問題が生じた際に、労働審査官、労働・社会福祉省担当官、労働裁判所等に提出が必要となる場合もある重要な書類です(注2)。就業規則は企業が操業を開始する前に作成するのが通常であり、労働者を10人以上雇用している使用者はタイ語の就業規則を制定後、(その労働者が10人以上となった日から起算して)15日以内に労働者が認知しやすいよう職場に提示(注 3)しなければなりません。さらに、就業規則の公布から7日以内に写しを労働局に届け出て、労働官の認可を受ける義務があります(注4)。

(注1) 10人未満の事業所には、そのような規定がない。ただし、10名にならない小さな事務所でも、労働者に対する口頭による指示だけでは社内の規律が徹底しないし、就業規則が無い事が労使間の揉め事の原因となることを考えると、法律による規定は無くても、作成しておいたほうが無難です。タイでは家内工業的な零細・小規模な事業所の比率が非常に高く、事業所の規模が小さければ小さいほど労働者保護法違反が多くなります。特に、製造業、販売業、サービス業で、最低賃金や時間外・休日出勤手当などの賃金に関する違反が多い。
(注2) 労働関係法第10条の規定によると、労働者が20人以上いる事業所は書面にて「労働協約」を定めなければならないとするとともに、労働協約が会社に存在しない場合は、就業規則が労働関係法上の労働協約であると見なされます。多くの在タイ日系企業では、労働者・労働組合と労働協約を締結しているケースは少ないと考えられる事からも、就業規則は重要な書類であると言えます。
(注3) 日系企業は、通常、タイ人の弁護士に就業規則の作成を依頼します。当然の事ながら、弁護士はタイ語で専門用語等の難しい言葉を駆使して就業規則を作成してきますので、その結果、労働者が重要な就業規則を理解できない場合があります。そのため、就業規則を社内で公示する際は、使用されているタイ語の表現が労働者にも理解できるか、社内のタイ人スタッフに確認してから告知するようにしたほうがよいでしょう。
(注4) 労働者保護法108条3項により、労働官は法に抵触する規則を一定期間内に修正するように命令する権限を有しています。そのため、就業規則の作成および修正にあたっては、実際は労働事務所へ提出して法的に問題ないか確認してから労働者に公布する場合が多い。

就業規則の法定記載事項

  労働者保護法108条により、就業規則は少なくとも以下の内容を含んでいることが義務付けられています。

(1)労働日、通常の労働時間、休憩時間

・1日8時間以内、週48時間以内。休憩時間は1日最低1時間以上。
・労働日は使用者が毎年のカレンダーに基づいて定めるのが通常であるから、就労規則でも通常そのように規定しておく。

(2)休日および休日に関する規則

・有給で最低週休1日。

(3)時間外労働、休日勤務に関する規則

・時間外労働の場合は労働者の承諾を得なくてはならない。
・週36時間以上の労働は禁止。
・年間13日の祝祭日は休日とし、休日と重なる出勤の場合は代休を与えなければならない。

(4)賃金、時間外労働手当、休日時間外労働手当に関する規則、支払う期日および支払う場所

・賃金は少なくとも1月に1度与え、時間外労働は時間当たり賃金の1.5~3倍を与える義務がある。
・休日労働は、休日が有給の場合は時間当たり賃金の1倍以上、無給の場合は2倍以上を与える義務がある。

(5)休暇に関する規則

・1年間の勤続者は年間6日以上の年次有給休暇の権利があり、詳細は労使合意により決定される。
・病気休暇は年間最高30日まで有給。兵役休暇は60日まで有給。産休は休日を含め90日の休暇、そのうち最低でも45日は有給。

(6)規律および規律違反に関する罰則

・労働者にとっては、解雇、減給など利害に直結する重要な問題であるため、特に慎重に作成する必要がある。

(7)苦情申し立て

・苦情を申立てたことを理由に労働者が懲戒されないなど、苦情申立て人および関係者の保護規定を設ける事が重要である。

(8)解雇、解雇補償金、特別補償金

・使用者の都合で解雇する場合、解雇補償金を払えば不当解雇にはならない。
・120日以上1年未満勤務した労働者には、使用者は少なくとも最終給与の30日分、1年以上3年未満の勤務者には90日分を支払う義務がある。ただし、自主退職、規則違反、3日以上の職場放棄などがあった場合、および180日以内の試用期間中の労働者を解雇する場合、退職金は支払う義務はない。
・労働法に違反する違法ストライキが発生した場合、指導した労働者等を就業規則によって解雇保証金無しに解雇することができる。

就業規則の作成にあたって

  就業規則の作成にあたっては、通常は日本語で先に作ってタイ語に訳す方法をとる場合が多い。実際に就業規則を作成するにあたっては、1998年に制定された労働保護法が主要な参考資料となります。1998年労働保護法は日本語にも翻訳されているので、その規定を核とした上で自社の社内事情を考慮しながら基本事項から盛り込んでいき、まずは就業規則の叩き台を作成していく。それから、法律事務所や業者に具体的な就業規則の作成及びタイ語翻訳等を依頼したほうが効率的です。ただ、自社の就業規則であっても、1998年労働者保護法108条規定の法定記載事項などは必ず盛り込まなければならないのであるから、タイ語に訳された就業規則に使われている用語は法律の用語と同じ言葉になるようチェックして統一する必要があります。

  就労規則の作成にあたって特に注意すべき項目としては、規則に違反した労働者に対する懲罰および懲罰決定の方法が挙げられます。労働者の解雇、減給など、労働者にとっては生活に直結する非常に重要な事項のため、懲罰の審議および決定の基準、プロセス等を明確にしておく必要があります。そのためには、労働法に通じた法律事務所、労働事務所等に相談して、慎重に規則を作成されたほうが良いでしょう。

  また、1998年労働者保護法で、新しい規則として、従業員に対するセクハラを禁止する旨の規定が明記されました。そのため、アメリカ社会のように、従業員に対するセクハラが原因で裁判沙汰になり会社側の責任が問われたりする事がないように、就業規則にもセクハラ禁止の規定を明記しておくべきでしょう。

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